クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 ゼルキン(62)

2017.06.08 (Thu)
ゼルキン皇帝
ゼルキン(p)/バーンスタイン/ニューヨークフィル(62、SONY)は
血を見るバトル。
何枚か聞き比べてやはりこの演奏に漂う気迫が尋常でないのを確認した。

『皇帝』は曲が「立派」すぎて威圧的でそんなに得意でないのだが、
ここまで開きなおってやってくれれば言うことなし。
柔らかな美しさはないが、最近ほとんど見ないピュアな覇気がある。
「爆演」かもしれないがゼルキンもバーンスタインも本当に凄ましいのだ。

第1楽章冒頭のバァーン!!からピアノの硬質な音が上下したあと、
オケが負けじと競い始める。ニューヨークフィルが対抗心メラメラ。
アクセントが強く低弦がゴリ押す。ブラスはぶっ放す。
そうなるとピアノも一歩も引かない。
バンバン撃ち合う。なんじゃこりゃ!!!
静まったところでも異様な緊迫感が漂っている。
ゼルキンってこんなに唸る人だったかと思うほどウーウー言っている。
serkin.jpg
青年バーンスタインは全く構うことなく還暦オヤジに襲い掛かる。
Leonard_Bernstein.jpg
容赦なし。テンポは必然的に速くなる。

第2楽章は逆にゆったりだが分厚さは変わらない。
このうねる様な感触はバーンスタインのものだ。
ピアノは強く臨界点一歩手前。

終楽章に入るとまたもやゼルキンの強打で耳が痛い。
当然オケがまた目覚める。なんでこう挑発するのか?
男ゼルキン絶好調でバリバリ弾きまくる。
終結に向かい渦巻くオケ。ギラギラ感満載。

この盤は世の中的にどのような評価なのか知らない。
こんなのまともなベートーヴェンではない、という人が
いてもおかしくない。
しかしこの真剣勝負は尊敬に値する。

録音はマンハッタンセンターでのセッション。
響きが大きいが巨大さ、豪快さならここだ。音響から少しハイ上がりに
なるところが緊張感のスパイスにもなってしまっている。

19:33  8:45  9:59   計 38:17
演奏   爆S   録音  88点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 バーンスタイン(60)

2017.06.07 (Wed)
バーンスタインPcon1
バーンスタイン(p&指揮)/ニューヨークフィル(60、SONY)は才人の面目躍如。
ロマンティックで愉しい。
「第1番」はバーンスタインのピアノ弾き振りレパートリーの一つ。
バーンスタインピアノ2
1970年ウィーン芸術週間で「フィデリオ」を振る合間にこの曲でコンサートをやっていた。
その時の模様はTVで放送され、バーンスタインは
「ベートーヴェンはウィーンのもの。私はみなさん(VPO)にお任せするのみ」
と語っていたが、そんなことはない。しっかりバーンスタイン流だった。
バーンスタインVPO

第1楽章の冒頭のオケは音場の広さもあって、この曲の想定を遥かに超えるでかさ。
そこに悠然とバーンスタインのピアノが乗る。大柄なタッチながらよく歌う。
カデンツアはキース・ジャレットを聴いている感じでもある。実に能弁雄弁。

第2楽章は思いがこもり情緒纏綿。

第3楽章は活き活きノリノリ。
巨大なオケの響きが少しミスマッチだが、ピアノはスゥイング。
『ティコ・ティコ』の音楽が流れだすと体を大きく揺らしながら笑顔で弾いている(と思う)。
チャーミングなオケの合いの手で幕を閉じる。

録音はマンハッタンセンターでのセッション。
この場所特有の響きの大きさはこの曲ではちょっと。
ただし、オケ、ピアノともに伸びはよく、強音でも潰れない当時の優秀録音。

18:32  11:16  8:32   計  38:20
演奏   愉   録音 87点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 ロール(95)

2017.06.06 (Tue)
pcon15ロール
ロール(p)/シェリー/ロイヤルフィル(95、RPO)は密かな愛聴盤。
速めのテンポで軽やかで粒立ちよく実に気持ちがいい。
英国コンビらしくノーブルで表情に気負った癖がないのもいい。

ロール(Michael Roll 1946~)はイギリスのピアニストで17歳にしてリーズ国際
ピアノ・コンクールの覇者となった(1963年2位はクライネフ)。
因みにこのコンクールはルプー(69年)ペライア(72年)が第1位、内田光子(75年)が
第2位などになっている。
この人の両親はウィーン出身だがユダヤ系のため英国に来たのだろうか。
そんな由来もあってか独墺物を中心演目にしてきたが、近時は教鞭をとっている。
マイケルロール

また本盤の英国の指揮者のシェリー(Howard Shelley 1950~)自身高名なピアニストで
ひょっとするとロールよりも沢山ピアノのCDが出ているのではないか。
しかしここでは完全にサポートに回いい指揮ぶり。
Howard-Shelley.jpg

第1楽章冒頭の序奏を聴くと刈り込まれたオケが爽やかでよい予感。
そしてピアノの登場。
颯爽としたテンポで転がる。ハイテクで全くもたつくことない。
軽快なのだがフレーズごとの表情はきっちりで単調ではない。

第2楽章は朝の音楽。空気感が澄んでいてピアノが凛としている。

第3楽章いきなり飛び出すピアノの多彩な表現を聴いただけで
この人は只者ではないと思う。ロンド・アレグロの中の一瞬の隙に陰影。
2:31から始まるラテン音楽『Tico Tico No Fuba ティコ・ティコ・ノ・フバー』も
ふざけすぎないがノリがいい。
(ティコティコは⇒こちらで試聴
終結に行くに従いオケも好調。

録音はC.T.S. Studios, Londonでのセッション。
このロイヤルフィルシリーズで好録音を連発している場所。
抜けよく響きの塩梅もよい。ピアノもキラキラ綺麗。

13:46  11:12  8:23   計 33:21
演奏   S    録音  94点

ベートーヴェン 交響曲第7番 バレンボイム(99)

2017.06.05 (Mon)
バレンボイム78
バレンボイム/ベルリン・シュターツカペレ(99、TELDEC)は
ドスコイ充実の極み。
ピリオド奏法に全く目もくれずこのオケを信じわが道を行く。

バレンボイムには10年前のベルリンの壁崩壊記念演奏会ライブがある。
あの興奮に憑かれた演奏に比べ、演奏時間は反復実行も加え6分長くなり、
じっくりどっしり型の演奏が出来上がった。

第1楽章ギュッと固まった響き。弦は流麗というよりゴリゴリザクザク感を残す。
木管は清らか。金管は逞しくティンパニは硬質に打ち込まれる。
バレンボイムの解釈は恣意的でなく正攻法で力強い。
変哲ないのにここまで素晴らしい演奏になったのは、
指揮者には申し訳ないが低重心のオケの威力。
いや、ここまで立派な音を出させた指揮者の力量というべきか。

第2楽章も遅いテンポでひたひた迫る。音響が地に足がついている。
ブルドーザーの行進。

第3楽章も軽はずみにならない。
とはいえ、ここでは粘性が高いのが気になる。

終楽章はテンポは普通なのだが確信犯的にリズムの刻みを
前の音にかぶせるような処理。これにより舞踏感を出しているよう。
しかしながら相変わらず重い音なので独特の雰囲気を醸し出す。
最後の追い込みもさすが。スタジオ録音だが燃焼してる。
最近の小手先の軟な演奏とは違うぜ!と演奏が言っている。
Barenboim.jpg

録音は旧東ドイツ側にあった放送局スタジオでのセッション。
ここの響きがまことによろしい。音が止むときに残響も綺麗。
マルチマイクで録りながらうまくミックスしてこのオケの最良の音を伝える。

14:27  9:37  9:37  8:35   計 42:16
演奏   A+    録音  94点

プロコフィエフ ピアノ協奏曲第2番 デミジェンコ(95)

2017.06.04 (Sun)
デミジェンコ23
デミジェンコ(P)/ラザレフ/ロンドンフィル(95、hyperion) は優しく深い。
デミジェンコ(1955~)はウクライナ系ロシア人。
彼はモスクワ音楽院で学んでいるときロシアの叩きつけるようなピアニズムに
反発していたようだ。むしろジョン・フィールドの流れを大事にガンガンバリバリでなく
弱音、まろやかさ、深さで勝負する。

彼は1978年のチャイコフスキーピアノコンクールで第3位。
この時の優勝者がプレトニョフ。対照的だ。
むしろショパンコンクールに照準を絞った方がよかったのかと思わせる。
なお、この人はイギリスのハイペリオンと専属契約してしまっているので
マイナーなイメージだが素晴らしいピアニスト。
Demidenko.jpg

たまたまyoutubeで彼の演奏するこの曲の映像を見つけた。
スペインでの2015年のライブ (SinfonicadeGalicia)

60歳の演奏ということもあるかもしれないが輪郭はしっかりなのだが
実にまろやかで、我々がイメージする旧いタイプのロシアのピアニストでは無い。
プロコフィエフの外見上のモダニズムというより
聴いたことのないような詩的で太い演奏。そして静かだがしっかり主張している。
このビデオに感動してしまったので本盤を取り寄せた。

そしてこの映像の20年前の1995年録音のこの演奏も既に同じ方向性だった。
第1楽章の序奏のアンダンティノは幻想的に進み、アレグレットに入ると
逞しくなるのだが決して大柄に叩かない。
第2楽章は20年後のビデオより速いテンポで軽やかだが濁らない。
第3楽章は白眉。遅いテンポは既にこの時から。隈取りしっかりしながら
踏み込んでくる。どんどん巨大になる。心に迫る。
終楽章はオケも好調で緩急つけながら。ピアノは冷静と情熱。

彼はコンクールの審査員を通じて日本のピアニストも多く見てきている。
その時のインタビュー記事があったので抜粋を転載させて頂く。
『日本には才能ある若い演奏家が多くいますね。あるところまでは大変優れた
成果を挙げますが一つだけ足りないとすればそれはコミュニケーション。
日本では伝統的に、自分の感情や意見を人々に向けて発信することを
あまり良しとしない傾向があります。しかし音楽とはコミュニケーションの芸術です。
ピアノも楽譜も物にすぎません。それを本物の音楽をするためには、
感情を出してコミュニケーションすることが大事です。
もちろんこれは一朝一夕に変えられるものではありませんし、
乗り越えるには多くの時間が必要です。
しかし世界には、勇気を振り絞り想像力を駆使して壁を乗り越え、
劇的な変貌を遂げたアーティストが何人もいます。
自分がこう感じるという内面の感情を人々に伝えることは、
何ら悪いことではありません。ただ、勇気を出せばいいのです。』

これは何も日本人ピアニストだけのテーマではない。

録音は場所の記載は無いがセッション。
このレーベルらしい誇張の無い音。
アビーロードのような感じもする。ピアノはそれほどオフではなく
全奏ではオケが包む。実演に近い印象。

12:26  2:38  8:33  11:41   計 35:18
演奏   S   録音  91点
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