クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

クラシック音楽のCDを中心に演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

Beethoven VnCon の記事一覧

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) ヤンドー(97)

2017.08.16 (Wed)
ヤンドー
ヤンドー(p)/ドラホシュ/ニコラウス・エステルハージ・シンフォニア
(97、NAXOS)はたおやかな時が流れる。
ヴァイオリン協奏曲からの編曲であることを忘れさせてくれる。
ピアノとオケがうまく溶け合い一つの世界を作っているから。

その成功の要因はヤンドー(1952~)の節度あるピアノ。
ヤンドー 写真
この人はハンガリーの出身で母校のリスト音楽院で教鞭をとりつつ
ナクソスに大量の録音をしている。
ナクソスの方針がクラシックのエンサイクロペディアを作るというものだから
極端に個性的な演奏よりもスコアを端的に再現するこのピアニストはぴったり。
彼のハイドンのピアノ・ソナタは愛聴盤だ。

また、指揮者ドラホシュ(1952~)はハンガリー出身でフルーティストでもある。
Béla Drahos
ブタペストの録音用小編成の当オケとこれまたハイドンなどナクソスに
多くの録音を残している。彼もまた穏やかな指揮をする印象だが、
ここでも同郷人仲間で和やかな演奏をしている。

ということでピアノ協奏曲版ととしては一番好きな演奏かもしれない。
肩に力が入らず、録音も含めてすべて心地よい。

第1楽章のカデンツァ(18:07~23:05)はベートーヴェンが編曲時につけた
ティンパニを伴うもの。こうして聴くとやはりティンパニはヴァイオリンよりも
ピアノの方が合うと感じる。打鍵の進行に加わる打楽器は協調的。
この演奏のティンパニの粒立ちもよい。
ピアノも無理に強打しないのが好感。

第2楽章も抒情的でピアノが可憐。

第3楽章はもう少し迫力が欲しいと思う人がいるかもしれないが
このチャーミングな曲としてこれで満足。ピアノはあくまで端正で軽やか。

録音はブタペストのイタリアン・インステュチュート内の
フェニックス・スタジオでのセッション。
hungary-budapest-1.jpg
小編成のオケを過不足なく捉え、響きも綺麗。
ピアノとの距離、溶け合いも適切。

24:13  9:24  9:43   計 43:20
演奏   S   録音  92点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 シェリング(65)

2017.08.14 (Mon)
Henryk Szeryng beethoven
シェリング(Vn)/シュミット=イッセルシュテット/ロンドン交響楽団(65、PHILIPS)は
とてもいい。端正の中に大らかさがあり幸福感に浸れる。

シェリング(1918~88)はワルシャワ生まれでベルリン・パリで研鑽を積んだ。
ユダヤ系であった彼は率先してポーランド難民の受け入れをしてくれたメキシコが
大好きになって、46年には帰化しててこの地で後進の指導に当たる。
しかし、56年にたまたまメキシコを訪れていたルービンシュタインの目にとまり
世界の檜舞台に引っ張り出される。人生とは分からないものだ。

シェリングというとバッハを得意とする堅い真面目なイメージが強いが、
ラテン気質もあるのだろう。そしてそれはこの演奏からも感じられる。
Henryk Szeryng 写真
同じくバッハを得意としたシゲティとは全く違う。

第1楽章のオケはまさにSイッセルシュテット。
押しつけがましくなく聴かせる。中庸の美徳のよう。
そしてシェリングのヴァイオリンも同様だ。凝縮されたというより拡がる音。
しかし丁寧で細やかさも備えているので全く粗い感じにならない。
演奏のテンポはおっとりなので心も和む。

カデンツァ(20:10~24:17)はJ・ヨアヒムの改訂版。
joachim.jpg
この人はこの曲の初演38年後の1844年にメンデルスゾーンの指揮で再演し
この曲の真価を広めた名ヴァイオリニストでブラームスの友人。
ただ、最近はこのカデンツァを使った録音は見かけない。
割と地味だからか?
確かにヴァイオリンの名技性と歌を備え飽きさせないクライスラー版が
多いのはよくわかる。でもこのカデンツァも案外革新的で面白い。

第2楽章も安心もの。なお、この楽章と終楽章のカデンツァは
シェリングの師であったカール・フレッシュという人のもの。
多分唯一の記録ではないか。

終楽章も歌いながら軽くダンス。必死の形相はなくあくまでノーブル。
これはオケもそうだ。

録音はロンドン、ヴィクトリア&アルバート博物館でのセッション。
HamnettFig_-1.jpg
レコーディングの場所としてはあまり聞いたことが無いが豊かな響きでいい音。
ヒスは残るがヴァイオリンソロも綺麗に録れている。
但し、当時のテープ収録の限界もありコーダでは飽和感がみられるのが惜しい。

25:24  10:17  9:45   計 45:26
演奏   A+    録音  86点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 クレーメル(80)

2017.08.12 (Sat)
kremer marriner
クレーメル(Vn)/マリナー/アカデミー室内管弦楽団(80、PHILIPS)は
全編真剣勝負。

クレーメル(1947~)はオイストラフに師事していたが
80年に西側に亡命してきたときには前衛ヴァイオリニストのイメージ。
その印象は話題になった本盤のカデンツァに象徴的だ。
彼の3種のこの曲の録音でカデンツァは75年盤はクライスラー、
本盤はシュニトケ、92年盤はベートーヴェン自身のピアノ編曲版。

とにかくこのシュニトケ(+クレーメル)のカデンツァが強烈。
しかしてそれ以外の部分はというと実に真摯で曖昧さが無い。
余裕を見せた92年と比べてこちらは張りつめている。

第1楽章のオケの導入はマリナーにしては力感がある。
そしてヴァイオリンが更に強固に入る。真剣で向かってくる。
甘美とか優雅という言葉とは遠い。オケも独奏も苦しいくらいに迫る。
ソロの中音域は図太く高音域は時にヒステリックですらある。
オケはどこまでも決然としている。

そしてカデンツァ(18:52~23:07)。
シュニトケのそれはニコリともしない。
schnittke.jpg
この楽章の動機、ヨアヒムのカデンツァ、ベルク、バルトーク、
ブラームスがコラージュ。ティンパニのクレッシェンドは
ペンデレツキのヴァイオリン協奏曲(第1番のレント部)とそっくり。
ともかくシュニトケらしく漆黒の闇を感じさせる。
殆どカデンツァの域を超えている。

第2楽章は前楽章の闇から救われる。
ただ、ここでも単に美音を振りまくという雰囲気は無く、
何かを希求し手を差し出している。

終楽章も気合が入っている。
オケの弦は終始一貫16分音符の刻みを強調する。
そしてまたもやカデンツァ(6:46~8:37)が凄い。
この楽章のモチーフから開始するが
どんどん外れて鬼気迫る暴風雨に。
その後正気を取り戻すが恐ろしい白昼夢を見てかのごとく。
呆然となっているうちに終わってしまう。
こうなるとこれを単に「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲」と
言ってしまっていいのか。それくらい既成概念を覆す演奏。

録音はロンドン・ヘンリーウッドホールでのデジタル・セッション。
ヴァイオリンはオンマイク、オケは左右に拡がるが
ややソフトフォーカス。ソロは決して美しいという音ではないが
これはこの時のクレーメルの音なのだろう。

24:09  9:55  10:20   計 44:24
演奏    衝    録音  90点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) バレンボイム(73)

2017.08.11 (Fri)
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バレンボイム(p&指揮)/イギリス室内管弦楽団(73、DG)は可憐な少女。
ベートーヴェンが37歳のときに作曲したヴァイオリン協奏曲作品61を
翌年改訂する際、出版社の求めに応じてピアノ協奏曲として編曲したもの。
オケパートは変わらず基本的には独奏をピアノに移し替えただけ。
結局右手が大半で左手は補助的に出る程度。
従って比較的ピアノ音楽としてはシンプルな響き。

本作品は正真正銘ベートーヴェン作だが殆ど取り上げられない。
当方保有盤もこのバレンボイム盤が一番古く、音盤としては第一号?
(コメントいただきました。69年P・ゼルキン盤がありました)
しかし聴く価値は十分ある。

改めてヴァイオリンとピアノという楽器の特性の差を感じさせてくれる。
連続的持続的な音で歌うことが得意なヴァイオリンに対して
音の粒立ちと減衰で表情を作り出すピアノ。
この曲でいえば優美でしなやかな大人の女性から
華やかな若やぎを持った少女に変化するよう。

もう一つの興味は第1楽章18:08(~22:57)から125小節に及ぶ
ベートーヴェン作のカデンツァ。
beethovenvc-autograph.jpg
ヴァイオリン協奏曲のカデンツァに自作は無いので
むしろ編曲版のこちらが100%ベートーヴェンだ。
ティンパニはリズムを刻み行進曲調だが、この演奏はあまり違和感が無い。
それは全体が柔らかくこの異端のカデンツァを興味本位で強調しないから。

第2楽章のラルゲットも11分近くかけポツリポツリと寂しげな表情を浮かべる。
バレンボイムのロマンティックな音楽性が出る。

終楽章もオケのスケール感は無いがお茶目で楽しい雰囲気が出る。
なお、ここでのカデンツァはティンパニを省略している。

録音はロンドンのウェンブリー・ブレント・タウンホールでのセッション。
編成が大きくないこともあるが非常にまとまりの良い音。
分離などの鮮明さは強調されず品のいい音。

24:05  10:55  9:43   計 44:43
演奏   A+    録音  90点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 シュナイダーハン(62)

2017.08.08 (Tue)
シュナイダーハン62
シュナイダーハン(Vn)/ヨッフム/ベルリンフィル(62、DG)は
独特のヴァイオリンの音色とシュナイダーハン版カデンツァ。

まずは、ヨッフム(1902~87)対シュナイダーハン(1915~2002)。
ヨッフムの率いるオケはもうこれ以上ないほど毅然として立派。
それに対するシュナイダーハンは外見に似合わず女々しい音(ほんとに失礼)。
今このような音を出すヴァイオリニストはまずいないのではないか?
と思っていたらCDショップの広告文言が答えてくれた。

『シュナイダーハンの芸風を一言で示せば、広い意味で「根っからの
ウィーンの芸術家」であるということになるでしょうか。
技術面で言えば、ヴィブラート(音の揺らし方)にドイツ・オーストリア系統の
特色が出ています。即ち、左手首をキリリと震わせて、幅の狭い、細かい
ヴィブラートを掛けるやり方で、彼の甘美で切ない音色の秘密ともなっています。
これは、現在の主流である幅の広い華麗なヴィブラートの掛け方とは
対極にあるやり方です。』

なるほど、併録のモーツァルトは違和感ないのも頷ける。
女々しいというのはウィーン風の甘美さというべきだった。

第1楽章に題をつけると『金色夜叉の寛一お宮に突然のトルコ軍の乱入』。
冒頭は当時のベルリンフィルのずっしり音が刻まれる。
それに対してヴァイオリンは実に頼りない音を纏綿繰り出す。
延々オケがヴァイオリンを蹴散らかしてたと思っていると
寛一お宮
そこに突然ソロの逆襲が始まる(カデンツァ開始19:30)。
キーキーわめき一生懸命抵抗するのだがまだひ弱。
そこにトルコの援軍(ティンパニ)登場(20:37)。
トルコ軍
これに意を強くして一層反抗する。
しかしそれも23:30にあっけなく終了し、
ヨッフムの率いるドイツ軍に簡単に丸め込まれてジ・エンド。

第2楽章はオケの手のひらで延々とすすり泣く。
ここでは気品を備える。

終楽章はようやく気を取り直してルンルンとステップ。
わがまま放題の少女といった感じで自分のテンポで踊る。
オケは相変わらず容赦なく剛毅のままだ。実に面白い。

なお、シュナイダーハンにはいくつかこの曲の録音がある。
カデンツァは53年フルトヴェングラー盤ではヨアヒム、
59年ヨッフム盤はシュナイダーハンの自作になり
本盤ではそれが更に手が加えられた改訂シュナイダー版となる。
いずれもベースはベートーヴェンがピアノ協奏曲への編曲した際の
カデンツァがベース。

録音はベルリン、イエス・キリスト教会(西独)でのセッション。
一聴してこの会場だと分かる美しい音。
オケはまろやかでソロもしっかりピックアップ。

24:35  10:49  10:54   計 46:18
演奏   女A+    録音  89点
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