クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

クラシック音楽のCDを中心に演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

バーンスタイン ミサ 井上道義(2017)

2017.07.16 (Sun)
バーンスタインミサ公演ポスター
井上道義/大阪フィルハーモニー交響楽団他(2017、公演)は感謝&感涙。
初めてこの作品を劇場でシアターピースとして観た。そして感動した。
わざわざ大阪まで行った甲斐があった。

日本で23年ぶりの公演(フェスティバルホール)。
総監督・指揮・演出を手掛けた井上道義、関係者の情熱に頭が下がる。
たった2回の大阪での公演では全くもとがとれない多彩な出演陣と演出。
オケはもとより18人の歌手、児童合唱、バレエダンサー、合唱団、
ロックバンド、ブルースバンド、ブラスバンドの面々200人。
それぞれのパートごとの練習などがブログに上がっていたが
ここから皆の熱意が溢れ出ていた。

この作品の主題は解説書で以下のように説明されている。
 ①宗教的テーマ : 宗教宗派間対立ではなく個人の信仰の重要性。
 ②政治的テーマ : 作曲当時のベトナム反戦、平和への希求。
 ③音楽的テーマ : 音楽のジャンル、垣根を払拭する試み。

一方、今回の演出の最大の特色は
バーンスタイン自身の個人的内部葛藤に焦点を当てたこと。

ミサの進行役である「司祭」を「バーンスタイン」と見据える。
冒頭、作曲に勤しむ人物(バリトン:大山大輔)の姿から始まる。
その彼が「シンプルソング」を歌っている途中から
「司祭」に祭り上げられる(祭服を着させられる)。
「司祭」はミサの進行とともに周囲の影響も受け
アイデンティティの混乱と自己崩壊を起こす。
本当に在りたかった「彼」と周囲が既定する「彼」がずれてくる。

これはまさに、バーンスタイン。
シリアス作曲家として評価されたかったミュージカル作曲家、
指揮者、ピアニスト、TV解説者である才人。
一般的人気は得ても、批評家から辛辣に否定され続けた音楽家。
バイセクシャルが暴かれヘビーな飲酒と煙草で体を痛めつづけた個人。

『この作品は私のすべてであり、私の人生だ』とバーンスタインは
かつての日本公演に向けて語ったというが、本音だろう。

さて今回の公演だが非常に丁寧に作られたと思う。
この曲は殆ど演奏されずCDも半世紀近くたっても4種のみ。
当日の聴衆があまり作品に馴染んでいないことが念頭に置かれたと思う。
舞台中央の字幕で台詞が出たのも手助けだ。
ただそれでも英語、ラテン語、ヘブライ語、日本語、関西弁が入り混じり、
多彩なジャンルの音楽と宗教儀式を背景とするこの作品に初めて出会うと
戸惑うだろうし、実際理解できなかった「招待客」も多数いただろう。

私など最初のシンプルソングからこの作品の実演に接した感激で
ウルウルしてしまったが、隣のご婦人は時折ウトウトされていた。
ただ、それでも休憩後の後半1時間は怒涛の流れで会場は緊張感に包まれた。
「聖体分割:全てが崩れる」の15分の司祭の独白から
「平和・聖餐式:シークレットソング」での清らかな歌
(中1の込山直樹君のボーイソプラノ圧巻!)の場面ではこちらの涙腺も崩壊。
前半寝ていた隣のご婦人も目頭を何度もぬぐっていた。
これはまさに音楽の力だ。訳が分からなくとも心に響くのだ。
(↓大フィル公式ツイッターから https://twitter.com/osaka_phil)
バーンスタインミサ2
バーンスタインミサ大阪1
観終わって一般的に解説される上記①から③のテーマよりもバーンスタインの
個人的葛藤(=これは多かれ少なかれ多くの人が持つテーマ)が心に残った。
歌詞でも反戦関連の言葉が変更されたり、本来ソプラノ指示の「グローリア」の
「ThankYou」がカウンターテナーで歌われるなど井上の意図を感じた。
今回の演出方針は今後この「ミサ」が生き残っていく一つの方向だろう。

そしてまさにこの曲はシアター・ピースとして舞台を観て、四方からの音響を聴いて、
嗅いで(インセンス香が焚かれていた)など体感して本領を発揮する。

とにかく上演は困難を極めるが、恐るべき傑作であることは断言できる。
そして出演者、関係者のチャレンジ精神と情熱にも大いに刺激を受けた。深謝。

コメント

No title
実は私の職場はフェスティバルホールの隣です。この公演も行くつもりだったのですが、仕事の段取りがつかず、断念しました。遠方からいらっしゃる方もみえる一方で、隣にいながら行けないという、現実は複雑ですね。
No title
リベラ33様
職場の近くにホールがあったのに行けずに残念でしたね。
フェスティバルホールは久しぶりでしたがいいホールでした。
当方、ミサを観た刺激で、ブロードウェイの
「ウエスト・サイド・ストーリー」
(渋谷東急シアターオーブ)を楽しんできます。
以前NYで観たのですがまた行きたくなりました。
バーンスタイン生誕100年が来年ですね。

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