クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

シューベルト ピアノ・ソナタ第21番D960 ケンプ(67)

2016.10.27 (Thu)
ケンプ21
ケンプ(67、DG)は鄙びた味わい。
肩の力を抜いて若き日を振り返る。

この曲は、先日NHKの連続ドラマ「夏目漱石の妻」で
第1楽章冒頭が「夫婦」のテーマとして使われていた。
夏目漱石の妻
NHKの記述では以下のように書かれている。
『憧れを秘めたかのような優しい旋律で始まる冒頭。
しかしそれもやがて地の底からの響きにも似た低音によって断ち切られて
静寂の間となる。また穏やかな主題が復活します。
が、その旋律も転調して長調から短調へ、時に嵐の様な激しい表情も見せながら
変奏を重ねてゆき…、最後、再び元の穏やかな主題へとゆっくり戻ってゆく。

まるで鏡子と金之助、この夫婦が重ねていった人生の年輪、
そのもののように感じます。

初めての出会い、その時二人が感じたであろうドキドキする将来への希望や不安、
やがて訪れる挫折、そして大きな成功、でもそこから生まれるすれ違いや倦怠、亀裂、
二人で様々なものを生み出し、やがて少しずつ色々なものを失っていく…、
様々なことを経て、それでも、共に歩んでいく二人。
明と暗、安らぎと不安が、繊細な合わせ鏡のようになって進んでゆくこの曲こそ、
「夫婦」というものの本質と変遷を見事に表現していると思いました』

なるほど、そう考えると実にドラマと音楽があっていた。
一見平穏で幸せそうな場面なのに常に不安が付きまとう心模様。
ドラマでは田部京子がこのために収録した音源を使っていた。
その演奏は淡々としながら味わい深いものだった。
これ見よがしのところがなかった。

そしてケンプ(1895~1991)の演奏を思い出した。
稀代のベートーヴェン弾きだったケンプはシューベルトも全集を残している。
70歳を過ぎた時のケンプの演奏は作曲者31歳で書かれたこの作品を
過去を振り返るように演奏している。

さらりと始まりながら展開部ではいつの間にかテンポが遅くなっていたり
不思議なゆらぎ感がある。洗練された音色でもない。
でもそうしたことがノスタルジックな雰囲気を醸し出す。
同時代の激情ではなくああこういうこともあったな、と。

田部の演奏がブルーをイメージさせるものだとすればこちらは暖炉色。
聴き飽きない演奏とはこのようなものではないだろうか。

録音はハノーヴァーのベートーヴェンザールでのセッション。
この会場特有の響き。
古さは感じるがケンプの演奏にはなにかマッチしたような音。

21:09  9:18  4:48  8:01   計 43:16
演奏    A+    録音  85点

コメント

No title
この曲はゼルキンのカーネギーホール・ライブを決定盤として愛聴していましたが、ケンプというのはなぜか未聴でしたので、さっそく聴いてみました。
しんみりとあたたかい、人間味あふれる演奏で心に沁みますね。

最近、ブッフビンダーの来日公演でのこの曲も、同じような感動を得ましたが、このとき彼は70歳。
一方、その少し前にツィメルマンの来日公演でやはりこの曲を聴きましたが、これはやや作為的というか、つくり上げた感じが否めなかった。ツィメルマンはこのとき59歳。
前出のゼルキンのライブは75歳の誕生日を記念する演奏会。
年齢を重ねることで得る何かが、この曲にほどよくマッチするのではと、感じざるを得ません。

来年、シフが64歳でこの曲を持って来日します。どのような演奏を聴かせてくれるか、楽しみです。


年齢と演奏
Riccardoさんが仰るようなことがすべてと言わずとも、(特にピアニストに関しては)あるような気がします。
心的テンポの遅延だけでは説明できない含蓄があることが多いですね。
もちろん、この曲においても若くても好きな演奏はあります。

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