クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

ベートーヴェン 交響曲第6番 ギーレン(86)

2016.10.11 (Tue)
MI0000973270.jpgギーレン田園
ギーレン/南西ドイツ放送交響楽団(86、Intercord)は真剣疾走。
私にとって超絶名盤。
単に速いだけの演奏ならほかにある。
しかし人間の奥深いところの情感に切り込んでくる。

何の予備知識もなく初めてこの演奏に接した時の驚き。
如何に自分は肥大・表層の演奏を聴いてきたのか。
凝縮された響きの中に千変万化の意味が込められる。
こんなことができるのだ。
ギーレンはとかく冷徹のように言われるがまるで違う。
男のロマンを抱えているので大袈裟な表情を出さないだけだ。
聴けば分かる。

ギーレン(1927~)が80年代にインターコードに録音した
第1回目のベートーヴェン交響曲全集は驚くべき名演揃い。
現在、廃盤のようだが即刻復活させるべきと声を大にしたい。
モダン・ピリオド、版の問題など捨象して絶対的価値を持つ。

彼のこのベートーヴェンに接してギーレンに開眼した。
今や引退した彼だが、振り返るとこのインターコード時代が
一番凄味があったような気がする。
(90年代後半の彼のベト全はまた違ったものになっている)
Gielen-Michael2.jpg

第1楽章は辛口。リピートありなのに10分。
暫くするとモーツァルトのように疾走する哀しみ。
実はこのテンポはベートヴェンの指示通り。
そしてこの速さは次楽章のためだったのだと後から気づく。
オケの弦の音が何とも清冽。少し憂いを帯びている。

第2楽章は癒し。繊細で傷ついた心を温めてくれる。
運動する前楽章との対比が強烈。
なるほどこういうことだったのか。
アクセントは抑制されぞくぞくするほど美しい。
繰り返されるモティーフに微妙な遠近を感じさせる。
そしてこみ上げてくる。
終結の鳥のさえずりが深い淵から聴こえる。
この演奏で初めて最初の二つの楽章の位置づけ、意味が分かった。

第3楽章は対向弦の掛け合いと浮き沈みが絶妙効果。
管の合いの手も素晴らしい。

第4楽章は正当な迫力。

第5楽章は襟を正したくなる清潔な音。
「喜び」「感謝」というよりも「決意」「意志」。
そうした心象が弦に出る(扱いが巧い)。
淀みない流れ、清らかで逞しい音楽に鳥肌が立つ。
終結の凛とした潔さ、その佇まいは、変な例えだが武士道のよう。

この演奏を聴き終えた後、ふと画家フリードリッヒの有名な
「雲海の上の旅人」(1818年)が想起された。
雲海の上の旅人

なお、このCDの併録は、ギーレン作曲の
「夜明け〜パブロ・ネルダの言葉をともなうオブリガート・ピアノ、
5人の独奏楽器、5人の奏者からなる5グループのためのペンタフォニー」
という現代音楽。これは相当硬派。

録音はハンス・ロスバウトスタジオでのセッション。
残響は多くないがブルートーンで左右は明快。弦の配置はよくわかる。
スタジオ録音だが詰まった感じはない。

10:01  12:17  5:05  3:42  9:23   計 40:28
演奏   S    録音  91点

コメント

No title
インターコード期の充実ぶりは私も同感です。後年のマーラーがピックアップされがちですが、この時期のベートーヴェン、ブルックナー、チャイコ等々どれも充実の出来だと思います。弦の対向配置も吉ですね。
素晴らしい
わが意を得たりです。ギーレンの凄さをもっと知ってもらうためにインターコード時代の記録をどこかまとめて復活してほしいものです。
No title
同感の方がいらして心強いです。

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