クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

クラシック音楽のCDを中心に演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

ムソルグスキー 展覧会の絵 チェリビダッケ(93)

2015.03.29 (Sun)
展覧会の絵チェリビダッケEMI
チェリビダッケ/ミュンヘンフィル(93、EMI)は次元が違う。
チェリビダッケはこの曲を得意として非正規盤も含めて何種かの音源が出ている。
全部を聴いたわけではないがほかの指揮者と全く景色が違う。

チェリビダッケの指揮の特徴を最も表す演奏は、
と聞かれたらこの「展覧会の絵」を思いつく。
42分超の演奏時間は通常より10分長い。
表現はラヴェルでもムソルグスキーでもない。
この指揮者の美学が凝縮している。
EMIがチェリビダッケの死後、彼のミュンヘンライブを体系的に
発売し始めた時の第一弾にこの演奏を選んだのも、むべなるかな。

私は1980年ロンドン交響楽団と来日したチェリビダッケのこの曲の演奏を
エアチェックしていた。最初はあまりに遅いテンポに辟易したが、
「キエフの大門」を聴き終えてノックダウンされたのを覚えている
(更に追い打ちをかけたのがアンコールのプロコフィエフ「ロミオとジュリエット」
<タイボルトの死>の壮絶)。その前年カラヤン/ベルリンフィルの同曲の
来日公演があって、これまた凄いエナジー量だったが、翌年のチェリビダッケの
演奏はまた全然違う凄味があった。クラシック界がまだ元気だった頃だ。

ロンドン響も素晴らしいが、この盤はチェリの目指した究極かもしれない。
テンポはオケの耐えられる極限まで遅くなり、細部を穿ち
曲の想定していたスケールを悠に超え崩壊寸前まで肥大化。
それに耐えるミュンヘンの技量にも驚く。

録音はミュンヘンガスタイクホールでのライブ。このシリーズ共通のホールの
大きさを活かしながらも、聴衆の吸音効果で響きすぎない優秀録音。
はっきり言ってEMIが条件の整った中で行うスタジオ録音よりこちらの方がよい。
もともと、NDR制作陣による録音だからだ。

「プロムナード」は驚くべきスロースタートだが、実は全曲この調子。
「小人」などそれぞれのフレーズを腑分けしていくようだ。
レガート奏法で鬱蒼とした雰囲気の中、音を分解。
時に全休止を効果的に用いる。
その後も同じような調子で各楽曲をやる。
「古城」の雰囲気は弱音美音効果で抜群。
「ビドロ」で前半の心理的ピークを迎える。覆いかぶさる重さ。
しかし、「殻をつけた雛」「サミュエル」は曲の想定するテンポを
逸脱しているような気もする。
というのは「リモージュの市場」では相応のテンポを実現しているのだから。
「カタコンブ」の金管はブルックナーで鍛えたミュンヘンのそれだ。
強音で攻めまくるのでなく、多彩な表情と素晴らしいハーモニー。
「バーバヤガ」も巨大な宇宙空間での衝突のよう。

「キエフの大門」は従前同様の遅いテンポながら、
恐ろしくハリのある金管とティンパニの強打音のアクセントで開始。
長い道のりを来て少し疲れた所で覚醒を促す。
その後チェリマジックのオンパレード。
①3分半からの30秒間のじらすようなクレッシェンドを得た後での
緊張を開放する主題の高らかな吹奏。
②5分から。テンポを更に落として弦の刻みを強調させた後に
ホルンの下降音でいやがうえにも広大なスケール感を演出
(こればブルックナーの交響曲第4番の終結部でも使われた手法)。
③5:44から出現するバスドラムの意図的な2発のずらしで
聴衆の度肝を抜く。
④終結の太鼓を抜いたテヌート終結で陶酔を誘う。

とにかく、チェリの手練手管に完全にやられてしまうのだ。
(実は①から③の仕掛けの原型はアンチェル(68年)に見られるが
④の最後の仕掛けはチェリ独自かも)。

なお、初盤には併録のチャイコフスキー「ロミオ」に加えてボーナス盤として
チェリのインタヴュー(48分)がついている。
いきなり「禅」の話題から入り「テンポ」などが彼の考え方が語られて
いるようだが、ドイツ語なのでさっぱり分からず(泣)。

42:22
演奏  S    録音 92点

コメント

異世界の演奏
こんばんは。

チェリビダッケは1980年の来日公演を聴きましたが
ミュンヘン・フィルの音楽監督就任前と後では、別人?な気がします。

このCD、データでは2日間の収録の編集ですが
それでも、ソロがテンポの遅さに耐えきれない様子が伺えます。
しかし、これは「異世界」の演奏ですね。
終曲のコーダなどは、マーラーの交響曲みたいです。

今更ですが、ミュンヘン・フィルとの実演を聴いてみたかった。

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