クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

クラシック音楽のCDを中心に演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

ベートーヴェン 交響曲第5番 マゼール(58)

2014.07.20 (Sun)
マゼール5DG58
マゼール/ベルリンフィル(58、DG)。
2014年7月13日、ロリン・マゼールが亡くなった。84歳だった。
追悼の意味を込めてマゼールの軌跡を少し振り返りたい。
そうした時に思い出されるのは音楽評論家の竹内貴久雄さんが書かれた「マゼール論」。
これほど端的にマゼールの本質をついている文はないので引用させてもらいたい。
(1996年6月洋泉社『クラシック名盤・裏名盤事典』p.189)

『時代の先端の感性というものは絶えず変貌してゆくが、
ひとりの演奏家個人の変貌の振幅は、たいていの場合、決して大きなものではない。
ところが、マゼールは、その中で数少ない例外だ。
マゼールは自身の過去を否定しながら、大きな振幅で別人のごとくに変貌する。
それが、彼の天才たる所以だが、それが、ことさらに、
マゼールの変貌の真意を分かりにくくさせている。(中略)
マゼールは次々と別の場所へワープしているわけだから、昔は良かったなどと言って、
最初のマゼールのイメージから一歩も動かないでいると、
完全に置いてきぼりを喰ってしまうことになる。』

まさにその通りだと思う。
マゼールの変遷は竹内さんの分類と同様で以下の通り考える。

①肉食鬼才時代(50年代~70年代)・・・ベルリン・ウィーン
②俯瞰達観時代(70年代)・・・・・・・・・・・クリーヴランド
③粘着再稼働時代(80年代~90年代)・・フランス国立・ウィーン
④病的抒情時代(90年代前半)・・・・・・・・ピッツバーグ
⑤自由巨匠時代(90年代半ば以降)・・・・バイエルン・ニューヨークその他

①で度肝を抜かれ②で期待外れの経験をすると
「マゼールは若い頃がよかった」となってしまう。
小細工ばかりで人を見下すようなところも鼻につく、ともなる。
しかし、毀誉褒貶の激しいこの指揮者には固定観念を捨て去る必要がある。
また、上記分類も演奏ごと当否がある(人間そんなに単純ではない)。
また、欧州オケとやると大胆で、
米国オケとやる方がそつなくまとめる傾向もある(バーンスタインと逆)。

そんなことを考えている時今手元にあるマゼールの4種の「運命」が想起された。
(2010年大晦日東京でマゼールは半日でベートーヴェンの全交響曲を振って
「80歳の怪人指揮者」呼ばわりされニュースになったがそれは聴いていない)。

まず①の時代(第一期28歳)のこの盤から。
録音はベルリン・イエスキリスト教会で、ステレオ初期と思えないくらい完成度が高い。
全体と個々の楽器のバランスも良い。CDのリマスタリングがよいのかヒスや
左右強調もなく自然に拡がる音場の中で当時のベルリンフィルの重厚な音が楽しめる。
この後のDECCAでののウィーンフィル録音より誇張がない。

第1楽章冒頭の動機の音が既に素晴らしい。
ベルリンのピラミッド型で強靭筋肉質の音だ。そこに木管が綺麗な音とハリのある金管。
テンポも全く妥当(後年の方が速くなる)。終結部は意志的な表情。
誠に堂々としており、ブラインドで聴いたら28歳の青年指揮とは思えないはず。

第2楽章も強い。一生懸命ベルリンをドライブしている。
10:45かけてじっくりとしたドイツ音楽だ。

第3楽章もベルリンフィルの弦の威力を感じる。
すぐ後のカラヤン盤と違ってレガートはかからずピッチがそれほど高くなく、
中低域が厚いく無骨に聴こえる。なお、録音で聴く限り両翼配置だ。
パワーを充填して次になだれ込む。

終楽章も重厚な迫力を持つが木管を目立たせたり、
力感を巧みにコントロールするなど没我でない余裕を見せる。
終結に向かっては金管を強奏させ盛り上げる。

意欲満々さを素晴らしいベルリンフィルの音が巧くカバーして
鬼才戦闘開始の名演が仕上がった。

7:58  10:45  4:51  8:34    計 32:08
演奏 A+    録音 87 点

コメント

鬼才のまま逝去!
50年近く、クラシック音楽を聴いてきました。そのきっかけとなったのが、マゼールでした。昔はAMラジオでもリクエスト番組などで、クラシック音楽が流れていました。ふと流れていた音楽が妙に耳に止まったのです。今まで湧いたことがない感動が、フツフツとこみ上げてきました。その演奏は、マゼール/VPOのシベリウス/交響曲第1番でした。何だ!この曲は、そして演奏は、まだ20歳になったばかりの自分にとってこんなに感動したクラシック音楽は初めてでした。もちろん、それまで曲名はわかりませんでした。早速、次の日に、馴染みのレコード店に行きました。そしたら、そのレコードが店にあるではないですか。でも、ロンドンの輸入盤で、価格が2,200円もしました。2,000円でも高いのに、チョット考えました。今の物価に換算すれば8,000円くらいになるでしょうか?でも、思い切って買いました。そのレコードと共に音楽鑑賞、趣味のオーディオがスタートしました。マゼールと共にです。常にこのレコードが、再生装置の状態を計る物差しでした。いかにして、このレコードをうまく再生できるかが、私の夢でした。
このシベリウス、CDになって購入しましたが、あの冬のフィンランドの景色が描かれたジャケットは未入手です。エソテリックのSACDがあのジャケットで、いつか手に入れたいです。
さて、5番ですが、BPOとの盤は持っていません。VPO盤を持っていますが、演奏はまあ普通です。マゼールは2種類のシベリウス全集、チャイコフスキーの交響曲(クリーブランド)、ホルストの惑星などを持っていますが、興味はあのシベリウスの1番で終わっています。円熟した巨匠にはなれなかったマゼールですが、もう一度、彼の演奏を聴きなおしてみたいと思います。
クレモナさん
マゼールのウィーンフィルとのシベリウスは
強烈なインパクトですね。
それぞれのマゼール体験があるものですね。
ありがとうございました。
某音楽評論家に聴かせたい
こんばんは。

この記事を読んで聴いてみたくなり、聴いたところ
これは「隠れた名演」だと思いました。

フルトヴェングラーが亡くなって4年も経過していない
ベルリン・フィルの輝かしいこと!
それを縦横無尽に操る28歳のマゼール!

オケの響きの素晴らしさだけでなく、低弦の動きや金管の咆哮など
立体的な音楽づくりがあります。

「マゼールの演奏など何一つ良いものは無い」と言う
同年生まれの音楽評論家(存命)に聴かせてあげたい名演ですね。
影の王子様
マゼールの演奏など何一つ良いものはないと断言する
評論家がいるのですか・・・。
業としての「評論家」の発言ですよね、
ずいぶん思い切ったものですね(笑)
私はマゼールの人間臭いところが大好きです。
天才なので凡人に理解不能な場面もあるのですが。

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