クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

クラシック音楽のCDを中心に演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

マーラー 交響曲第1番 林千尋(89)

2010.12.26 (Sun)
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林千尋/ポーランド放送交響楽団(89,FONTEC)は全く知らないCDだった。
店頭で見つけて挑戦してみた。そしたらこれが驚くべき演奏だった。
日本人の繊細な感覚が生きているマーラー。
大味でこってりの欧米食(失礼)に対して、素材の良さを生かしつつひと手間かけた
極上の和食を味わう趣がある。従って聴き流すと分からないかもしれないし、
勢いや迫力でも負ける。しかしこの曲にこれほどマーラー後期に顕在化する複雑さが
滲んでいるとは思わなかった。
きっとこの演奏を実現するには、相当なリハが必要なはずで東欧のオケでこそ
実現できたのかもしれない。オケのレベルは高く、ポーランド民主化直後の
この録音は皆のやる気が感じられる。
録音はカトヴィツェのWOSPRITホールで低域はさほどないが見通しの良い音。

第1楽章を何気なしにヘッドフォン視聴し始めて・・・惹きつけられた。
一つ一つのフレーズ、それぞれの楽器に香るものがある。
木管、コントラバスが浮いては消える。ここまで雰囲気ある表情で再現した
演奏は思いつかない。試しに手元にあったギーレンやマゼールと聴き比べたが
それらの表情が単調に聴こえる。この指揮者は楽譜の強弱指定を忠実に守っている
というわけでなく自在に処理している。だから普段は聴こえないppp指定の
チューバの持続音などがよく聞こえたりする。しかしそれらが音楽に奥行きを与え、
明滅が新鮮さをもたらす。マス録音なのに楽器がそれぞれよく聞こえる。
これは凄いバランス感覚だ。
第2楽章も大味でなく繊細な指示が徹底されている。
たとえば中間部のダンスなど実に優しい表情でしかも粘らず踊る。
第3楽章は普通に始まるが白眉はこれも中間部だ。
切ない雰囲気を思いっきり出すのでなく隠し味のようにデリケートに歌うセンスが良い。
終楽章はフォルテ以外の部分にこの指揮者の個性が光る。
激情が収まるとぐっとテンポを落とし弦に歌わせ、
テーマの終結をティンパニのクレッセンドで豪快に盛り上げる。
全奏でも混濁せずに、じっくりしたテンポで進める。
通常は埋もれる弦のパッセージが聴きとれる。
ただ、細部にこだわるため僅かにこの長大な楽章の隙を見せることになる。
曲を聴き終わって豪快な感動というより、
大変おいしゅうございました、と言いたくなった。

13:59  7:47  11:37  21:41  計 55:04
演奏  和A+   録音 91点

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