クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

クラシック音楽のCDを中心に演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

指定期間 の記事一覧

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ウーギ(70)

2017.08.26 (Sat)
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ウーギ(Vn)/アンドレーエ/スイス・イタリア語放送管弦楽団(70、ERMITAGE)は
カンツォーネ。

ウート・ウーギ(1941~)はイタリアで絶大な人気を誇るヴァイオリニスト。
イケ面の彼が20代最後に歌いまくった演奏。
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考えてみればイタリアはガルネリやストラディバリなどヴァイオリンの名産地だが、
著名なヴァイオリニストというとアッカルドとこのウーギくらいしか思い浮かばない。
そしてウーギはイタリアらしい大らかに明るく歌う。

マルク・アンドレーエ(1939~)はスイスの名門音楽一家の血統をひく指揮者。
チューリッヒ出身でローマやパリの音楽院を出て指揮者となった。
地味な存在だがひと癖持つ。
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オケはルガーノ放送管弦楽団とも言われる。
ルガーノはスイスというよりもアルプス南部に位置しイタリアに突き出し
言語もイタリア語圏。都市といえばミラノで、60キロ。
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このオケは放送局付きで何でもこなすが
精度が高いとは言えないのは土地柄か。

第1楽章の序章はオケの方針表明。
指揮者はテンポに緩急をつけ抒情的な部分ではテンポを落とし歌います、
と宣言。しかしてこの演奏はオケもヴァイオリンもその後そのような展開。
ヴァイオリンは大柄で前に出る。元気よく、くよくよしない。
カデンツァはクライスラー。

第2楽章もヴィブラートが満載でそして歌いまくる。
決してデリケートではないがのびのびしていて気持ちいい。

終楽章は両者にやや疲れが目立つが最後まで歌いつくす。

録音は放送局のホールに聴衆を集めてのライブ。
響きは多くないがソロは明快に響く。
時折車の発進音が聴こえる(exⅠ7:40)。
半世紀近く前の録音にしては優秀。さすが放送局。

24:15  8:46  10:04   計 43:05
演奏   歌A    録音  87点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ハイフェッツ(55)

2017.08.25 (Fri)
ハイフェッツ
ハイフェッツ(Vn)/ミュンシュ/ボストン交響楽団(55、RCA)は
快刀乱麻を断つ。
37分半、この曲をこんなに一気に聴かせる演奏はほかに思い当たらない。
他が全部生ぬるく感じるのは困りもの。

冒頭のオケを聴いた瞬間、これは好きだ、と直感。
ミュンシュが速いテンポで決然と音楽を進める。
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きりりとした空気が漂う中、
ヴァイオリンは眠狂四郎か木枯らし紋次郎のように一振りで瞬殺。
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めちゃくちゃカッコイイこの二人。

ハイフェッツのヴァイオリンは単に無表情に冷徹というよりも
その鉄面皮の下に熱い思いを湛えているところがいい。
速いテンポでアクセントを強固に刻みながらオケは分厚く進むが
ヴァイオリンは全くひけをとらないで切れ込んで切る。最高だ。

16:56から19:35のカデンツァはハイフェッツの師のアウワー作のものを
改変して演奏。滅多にないものだが甘さのない技巧を披露。

第2楽章も速めのテンポで切ない。
べたべたの甘さではなくやせ我慢のそれだ。なんとロマンティック。

終楽章はハイフェッツが走る。オケは猛然と追いかける。
ミュンシュも負けない。スリリング。
この曲で協奏曲の快感をここまで味わえる演奏はない。
大家ががっぷり四つに組む。ライブならブラヴォー必至。

録音はボストンシンフォニーホールでのセッション。
録音年を忘れる迫真の音。名ホールと優秀なRCA録音陣の成果。
勿論経年のヒスやちょっとした飽和感はあるがり、リスクテイクして
テープ能力いっぱいまで録音レヴェルを上げたのがこの生々しさを
今に伝えることになった。名演名録音。

20:29  8:44  8:20   計 37:33
演奏   刀S    録音  87点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) 杉谷昭子(94)

2017.08.24 (Thu)
杉谷
杉谷昭子(p)/オスカンプ/ベルリン交響楽団(94、Brilliant)は終始優しい。
杉谷昭子(1943~)は東京芸術大学卒業後、1976年ケルン音楽大学大学院修了。
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本演奏はもともとオランダVerdi Records原盤で
このコンビのベートーヴェンピアノ協奏曲全集に含まれていた。
現在はブリリアントの廉価版全集などに含まれている。

この人の演奏は全く奇を衒うことがない。そこがよさでもあり地味でもある。
テンポはおっとりしている。
カデンツァもティンパニを伴うベートーヴェン作のものだがことさらに強調しない。
技巧をひけらかさないのはいいが、全体がたどたどしく聞こえる。

オケは良い音を出しているが、こちらもハリが弱い。
ということで全体的に優しい易しい演奏。

録音はベルリンのジーメンス・ヴィラでのセッション。
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すこしくすんでいるが、いい響きである。

25:20  10:58  11:18   計 47:36
演奏   A-    録音  90点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ヴェルヘイ(80年代?)

2017.08.23 (Wed)
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ヴェルヘイ(Vn)/フォンク/ユトレヒト交響楽団(80年代前半,Brillant)は
愚直丹念入念。しつこいぐらい音符を辿るので保有盤最長の46分超え。

エミー・ヴェルヘイ(Emmy Verhey, 1949~)はアムステルダム出身。
1966年史上最年少の17歳でチャイコフスキーコンクールでファイナリストになり
一躍脚光を浴びた。(↓当時の写真)
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1990年頃まではソリストとしての活動が活発だったが1983年にユトレヒト音楽院の
教職に就任して以降は指導の比率が高くなっているとのこと。

また、ユトレヒト交響楽団は1985年にネーデルランド室内管弦楽団と
統合してオランダ・フィルとなったもの。
したがってこの録音は85年以前と考えられる。

この演奏は最初から最後までインテンポを貫き、
ひたすら真面目に自己主張することがない。曖昧さはないが華もない。
カデンツァはクライスラーだがこれまた実直。
オケは地味ながらしっかりヴァイオリンに寄り添う。
ヴァイオリン学習者にとってはまさに教本のような演奏なのだろうが、
一般聴衆の立場とすれば楽譜+アルファを求めてしまう。

録音場所は不明のセッション。録音は悪くない。
まともな音楽がまともに聴ける。こちらもまた虚飾のない音。

25:49  9:49  10:42   計 46:20
演奏   A-    録音 90点

ベートヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) デュシャーブル(99)

2017.08.22 (Tue)
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デュシャーブル(p)/メニューイン/シンフォニア・ワルソヴィア(99、EMI)は
ピアノの表現が面白い。

デュシャーブル(1952~)はベロフ、ロジェ、シフと同世代のフランスのピアニスト。
超絶技巧ということだがここではそのようなひけらかしはない。
粒立ちのよい音で、表現力に富む。

一方、ロシヤ系ユダヤ人としてアメリカに生まれたメニューイン(1916~99)。
彼はヴァイオリニストとして何度もこの曲を録音している。
また、1984年にこのオケを創設し指揮者として専ら古典をやってきた。
因みにこの録音は99年1月、そしてメニューヒンはその2か月後に気管支炎が
こじれて82歳で世を去った。つまり最後の録音になった。

第1楽章のオケはスケールはほどほどで少しピリオド的な雰囲気も。
威圧的にならず丁寧に進む。
ピアノがクレッシェンドしながら入ってくる。こちらも軽やかである。
しっかり考え抜かれフレーズごとに聴かせる。
カデンツァはベートーヴェン作曲のものだが、
緩急を巧みにつけティンパニのロールも非常に効果的。

第2楽章はしっとりの中のお茶目。
前半は抒情的なのだが6:24から始まるピアノ独奏はフォルテピアノか
オルゴールのような音をわざと出して見せる。カデンツァはここでもうまい。

終楽章はチャーミング。一気呵成ではなくて丁寧に音を紡いでい行く。
オケは全般に出しゃばることなくつけている。
メニューヒンはこのコンビのシューベルトの交響曲で快速活気に満ちた
演奏を展開していたがここでそうした姿ではない。
体調がすでに万全でなかったのか。

録音はワルシャワのルストワフスキ・スタジオでのセッション。
Witold Lutosławski studio
響きは多くないがピアノ、オケともに鮮明に捉えられておりかつ綺麗。

23:59  11:02  10:26   計 45:27
演奏   A+    録音  93点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 パールマン(80)

2017.08.21 (Mon)
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パールマン(Vn)/ジュリーニ/フィルハーモニア管弦楽団(80、EMI)は
ジュリーニ(1914~2005)ペース。
最初は硬かったパールマン(1945~)のヴァイオリンは徐々に熱を帯びて
最後は激しい演奏を見せる。逞しいジュリーニの掌の上で思うまま。

第1楽章の序奏。相撲のシコ踏みのような太鼓の音を伴うどっしり音楽を聴くと
これはジュリーニの世界。30半ばパールマンはこれについていくしかない。
懸命に堅固な音を奏でるパールマンは立派だが彼本来の音楽なのだろうか。
ひたむきであるが余裕のある美音というわけにはいかない。
カデンツァはクライスラー。

第2楽章もオケの威圧感がある中、パールマンの音色はやや硬質。
圧の強さ感じさせる。

終楽章になるとパールマンはどんどん乗ってきて気迫の演奏を展開する。
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録音はアビーロードスタジオでのデジタルセッション。
オケはこの会場らしく奥行き感があまりない。
またヴァイオリンは響きが特有な癖。
中間楽章など耳につく。ティンパニは大太鼓のように図太く録られリードする。

24:25  9:23  10:08   計 43:56
演奏    A    録音  88点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 キョン=ファ(89)

2017.08.20 (Sun)
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キョン=ファ(Vn)/テンシュテット/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(89、EMI)は
素晴らしい呼吸感。オケは堂々としヴァイオリンは深く呼吸し伸びやか。
キョン=ファ(1948~)がテンシュテット(1926~98)との共演を望んだとのことだが、
両者の目指す方向が同じだ。

この協奏曲が優美さを超えてここまで味わいと深遠を見せるとは思わなかった。
キョン=ファの表現は積極的なのだが抑制も効いている。
聴いていて惹きこまれるヴァイオリンだ。
オケもLPOでなくRCOだったのがほんとによかった。

第1楽章のテンポはゆったりとしておりスケールが大きい。
そこに乗っかるヴァイオリンはテンポの遅さを感じさせない絶妙な表現を展開していく。
これは凄い、と感じる。
そして10分過ぎごろから更に両者はテンポを落とし深みに沈み込む。独自の世界。
カデンツァ(20:15)はクライスラー。単なる美技ではなく心の震えをあらわす。

第2楽章も実に繊細で奥ゆかしさの中の強さを感じる。

終楽章も最後まで集中している。ライブなのに恐ろしいほどの胆力。
むしろオケのほうがテンシュテットの棒に一生懸命。
終演後の盛大な拍手は当然。
キョンファライブ

録音はコンセルトヘボウでのライブ。
3日間のコンサートからの編集で聴衆ノイズはないが雰囲気は出ている。
フィリップス・DECCAのここでの録音とは違い
EMIは帯域・奥行きで劣るがアビーロードよりずっと良い。

24:53  9:42  10:07   計 44:42
演奏   S    録音  91点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ヤンセン(2009)

2017.08.18 (Fri)
ヤンセン
ヤンセン(Vn)/P・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー
(2009、DECCA)はオケもヴァイオリンも表現意欲が強い。
このヴァイオリン協奏曲が退屈だと感じる向きにはいいかもしれない。

まずP・ヤルヴィだがノンヴィブラート主体のアタックの強い演奏。
引き締まった音で強弱の振幅は激しい。
このコンビのベートーヴェンの交響曲全集の延長にある。
単なる優美な曲ではなく、運命交響曲に連なる「意志」を強調する。

ヤンセン(1978~)も負けじと「見て見て!」と張り合う。
ヤンセン2
美音というより情感が溢れ出ている。
実に多彩でこの協奏曲を使ってヴァイオリンの表現の可能性を
追求してくれる。ただ、ただ・・・私にはどうも煩わしかった。

第1楽章のカデンツア(18:33~21:40)はクライスラー。
ここでもこれでもかという技を披露する。

併録はブリテンのヴァイオリン協奏曲。
実はこちらが目当てでこのCDを購入した。
この曲はまさに天才の作で、なぜ普及していないのか不思議だ。
そしてこのコンビのこの演奏は手に汗握る迫真の名演。感動した。
ベートーヴェンで煩わしいと感じた「意欲」がこちらでは心に刺さる。
ひょっとしたら、このブリテンを聴かせるためのベート-ヴェンだったのか?
だとするならば、プロデューサーの罠にまんまとハマった。

録音はハンブルグのフリードリッヒ=エベルト・ハレでのセッション。
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ソロはオンマイクで弦の擦れ音まで明瞭に聴こえる。
オケも周囲に位置しギュッとした音作り。

22:56  8:20  9:25   計 40:41
演奏   A   録音  93点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) ムストネン(93) 

2017.08.17 (Thu)
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ムストネン(p)/サラステ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー(93、DECCA)は攻撃的。
ムストネン(1967~)はヘルシンキ生まれのピアニスト、作曲家、指揮者。
彼の演奏は何か問題意識を含むことが多い。
ここではヴァイオリン協奏曲作品61のピアノ編曲版を、作品61aとしてではなく
一つの独立したピアノ協奏曲として捉える。
自分で弾き振りした再録音(2008)があるし実演でもよく取り上げているようだ。

この演奏を聴いてまず感じるのはピアノの独特のタッチ。
ペダルをあまり使わず、鋭角的な音色で力強く進行。
最初堅過ぎると違和感があったが、彼がもとよりチェンバロを学んでいたことから
合点がいった。確かにそうした響きだ。
(この盤の併録はバッハのヴァイオリン協奏曲第3番をピアノ編曲したものだが
こちらの方がよりフィット感があるのはそうした故かも)

第1楽章は速めのテンポで行く。
サラステも速いテンポをとる指揮者だが、後のムストネンの再録音も速いので
両者の意見が合致しているのだろう。ピアノもオケも音を延ばさない。
ピリオド奏法とはまた違う独特な世界。
カデンツァ(16:50~21:03)の独奏は力強い。
猛烈なテクニックなのだが18:48のティンパニのクレッシェンドからは一層強固。
ただ、この演奏自体最初から攻めているので違和感は無い。

第2楽章は非常に特徴的。8分少々で駆け抜ける。
ピアノのポツポツした音がバロック的。

終楽章もキレがいい。エッジの効いた音で攻める。
半音階を含むカデンツァの上昇下降は機関銃のよう。

録音はブレーメン放送局でのセッション。奥行きのないデットな響き。
ゆえにピアノもオケも潤いに欠けるのが残念。
もとより演奏方針が明晰さを打ち出しているので
これはこれで在りかもしれないが。
ただピアノのタッチだけでなく響き自体が床の音を拾うような感じもする。

21:57  8:10  9:09   計 39:16
演奏    攻   録音  88点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) ヤンドー(97)

2017.08.16 (Wed)
ヤンドー
ヤンドー(p)/ドラホシュ/ニコラウス・エステルハージ・シンフォニア
(97、NAXOS)はたおやかな時が流れる。
ヴァイオリン協奏曲からの編曲であることを忘れさせてくれる。
ピアノとオケがうまく溶け合い一つの世界を作っているから。

その成功の要因はヤンドー(1952~)の節度あるピアノ。
ヤンドー 写真
この人はハンガリーの出身で母校のリスト音楽院で教鞭をとりつつ
ナクソスに大量の録音をしている。
ナクソスの方針がクラシックのエンサイクロペディアを作るというものだから
極端に個性的な演奏よりもスコアを端的に再現するこのピアニストはぴったり。
彼のハイドンのピアノ・ソナタは愛聴盤だ。

また、指揮者ドラホシュ(1952~)はハンガリー出身でフルーティストでもある。
Béla Drahos
ブタペストの録音用小編成の当オケとこれまたハイドンなどナクソスに
多くの録音を残している。彼もまた穏やかな指揮をする印象だが、
ここでも同郷人仲間で和やかな演奏をしている。

ということでピアノ協奏曲版ととしては一番好きな演奏かもしれない。
肩に力が入らず、録音も含めてすべて心地よい。

第1楽章のカデンツァ(18:07~23:05)はベートーヴェンが編曲時につけた
ティンパニを伴うもの。こうして聴くとやはりティンパニはヴァイオリンよりも
ピアノの方が合うと感じる。打鍵の進行に加わる打楽器は協調的。
この演奏のティンパニの粒立ちもよい。
ピアノも無理に強打しないのが好感。

第2楽章も抒情的でピアノが可憐。

第3楽章はもう少し迫力が欲しいと思う人がいるかもしれないが
このチャーミングな曲としてこれで満足。ピアノはあくまで端正で軽やか。

録音はブタペストのイタリアン・インステュチュート内の
フェニックス・スタジオでのセッション。
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小編成のオケを過不足なく捉え、響きも綺麗。
ピアノとの距離、溶け合いも適切。

24:13  9:24  9:43   計 43:20
演奏   S   録音  92点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 シェリング(65)

2017.08.14 (Mon)
Henryk Szeryng beethoven
シェリング(Vn)/シュミット=イッセルシュテット/ロンドン交響楽団(65、PHILIPS)は
とてもいい。端正の中に大らかさがあり幸福感に浸れる。

シェリング(1918~88)はワルシャワ生まれでベルリン・パリで研鑽を積んだ。
ユダヤ系であった彼は率先してポーランド難民の受け入れをしてくれたメキシコが
大好きになって、46年には帰化しててこの地で後進の指導に当たる。
しかし、56年にたまたまメキシコを訪れていたルービンシュタインの目にとまり
世界の檜舞台に引っ張り出される。人生とは分からないものだ。

シェリングというとバッハを得意とする堅い真面目なイメージが強いが、
ラテン気質もあるのだろう。そしてそれはこの演奏からも感じられる。
Henryk Szeryng 写真
同じくバッハを得意としたシゲティとは全く違う。

第1楽章のオケはまさにSイッセルシュテット。
押しつけがましくなく聴かせる。中庸の美徳のよう。
そしてシェリングのヴァイオリンも同様だ。凝縮されたというより拡がる音。
しかし丁寧で細やかさも備えているので全く粗い感じにならない。
演奏のテンポはおっとりなので心も和む。

カデンツァ(20:10~24:17)はJ・ヨアヒムの改訂版。
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この人はこの曲の初演38年後の1844年にメンデルスゾーンの指揮で再演し
この曲の真価を広めた名ヴァイオリニストでブラームスの友人。
ただ、最近はこのカデンツァを使った録音は見かけない。
割と地味だからか?
確かにヴァイオリンの名技性と歌を備え飽きさせないクライスラー版が
多いのはよくわかる。でもこのカデンツァも案外革新的で面白い。

第2楽章も安心もの。なお、この楽章と終楽章のカデンツァは
シェリングの師であったカール・フレッシュという人のもの。
多分唯一の記録ではないか。

終楽章も歌いながら軽くダンス。必死の形相はなくあくまでノーブル。
これはオケもそうだ。

録音はロンドン、ヴィクトリア&アルバート博物館でのセッション。
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レコーディングの場所としてはあまり聞いたことが無いが豊かな響きでいい音。
ヒスは残るがヴァイオリンソロも綺麗に録れている。
但し、当時のテープ収録の限界もありコーダでは飽和感がみられるのが惜しい。

25:24  10:17  9:45   計 45:26
演奏   A+    録音  86点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 クレーメル(80)

2017.08.12 (Sat)
kremer marriner
クレーメル(Vn)/マリナー/アカデミー室内管弦楽団(80、PHILIPS)は
全編真剣勝負。

クレーメル(1947~)はオイストラフに師事していたが
80年に西側に亡命してきたときには前衛ヴァイオリニストのイメージ。
その印象は話題になった本盤のカデンツァに象徴的だ。
彼の3種のこの曲の録音でカデンツァは75年盤はクライスラー、
本盤はシュニトケ、92年盤はベートーヴェン自身のピアノ編曲版。

とにかくこのシュニトケ(+クレーメル)のカデンツァが強烈。
しかしてそれ以外の部分はというと実に真摯で曖昧さが無い。
余裕を見せた92年と比べてこちらは張りつめている。

第1楽章のオケの導入はマリナーにしては力感がある。
そしてヴァイオリンが更に強固に入る。真剣で向かってくる。
甘美とか優雅という言葉とは遠い。オケも独奏も苦しいくらいに迫る。
ソロの中音域は図太く高音域は時にヒステリックですらある。
オケはどこまでも決然としている。

そしてカデンツァ(18:52~23:07)。
シュニトケのそれはニコリともしない。
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この楽章の動機、ヨアヒムのカデンツァ、ベルク、バルトーク、
ブラームスがコラージュ。ティンパニのクレッシェンドは
ペンデレツキのヴァイオリン協奏曲(第1番のレント部)とそっくり。
ともかくシュニトケらしく漆黒の闇を感じさせる。
殆どカデンツァの域を超えている。

第2楽章は前楽章の闇から救われる。
ただ、ここでも単に美音を振りまくという雰囲気は無く、
何かを希求し手を差し出している。

終楽章も気合が入っている。
オケの弦は終始一貫16分音符の刻みを強調する。
そしてまたもやカデンツァ(6:46~8:37)が凄い。
この楽章のモチーフから開始するが
どんどん外れて鬼気迫る暴風雨に。
その後正気を取り戻すが恐ろしい白昼夢を見てかのごとく。
呆然となっているうちに終わってしまう。
こうなるとこれを単に「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲」と
言ってしまっていいのか。それくらい既成概念を覆す演奏。

録音はロンドン・ヘンリーウッドホールでのデジタル・セッション。
ヴァイオリンはオンマイク、オケは左右に拡がるが
ややソフトフォーカス。ソロは決して美しいという音ではないが
これはこの時のクレーメルの音なのだろう。

24:09  9:55  10:20   計 44:24
演奏    衝    録音  90点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) バレンボイム(73)

2017.08.11 (Fri)
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バレンボイム(p&指揮)/イギリス室内管弦楽団(73、DG)は可憐な少女。
ベートーヴェンが37歳のときに作曲したヴァイオリン協奏曲作品61を
翌年改訂する際、出版社の求めに応じてピアノ協奏曲として編曲したもの。
オケパートは変わらず基本的には独奏をピアノに移し替えただけ。
結局右手が大半で左手は補助的に出る程度。
従って比較的ピアノ音楽としてはシンプルな響き。

本作品は正真正銘ベートーヴェン作だが殆ど取り上げられない。
当方保有盤もこのバレンボイム盤が一番古く、音盤としては第一号?
(コメントいただきました。69年P・ゼルキン盤がありました)
しかし聴く価値は十分ある。

改めてヴァイオリンとピアノという楽器の特性の差を感じさせてくれる。
連続的持続的な音で歌うことが得意なヴァイオリンに対して
音の粒立ちと減衰で表情を作り出すピアノ。
この曲でいえば優美でしなやかな大人の女性から
華やかな若やぎを持った少女に変化するよう。

もう一つの興味は第1楽章18:08(~22:57)から125小節に及ぶ
ベートーヴェン作のカデンツァ。
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ヴァイオリン協奏曲のカデンツァに自作は無いので
むしろ編曲版のこちらが100%ベートーヴェンだ。
ティンパニはリズムを刻み行進曲調だが、この演奏はあまり違和感が無い。
それは全体が柔らかくこの異端のカデンツァを興味本位で強調しないから。

第2楽章のラルゲットも11分近くかけポツリポツリと寂しげな表情を浮かべる。
バレンボイムのロマンティックな音楽性が出る。

終楽章もオケのスケール感は無いがお茶目で楽しい雰囲気が出る。
なお、ここでのカデンツァはティンパニを省略している。

録音はロンドンのウェンブリー・ブレント・タウンホールでのセッション。
編成が大きくないこともあるが非常にまとまりの良い音。
分離などの鮮明さは強調されず品のいい音。

24:05  10:55  9:43   計 44:43
演奏   A+    録音  90点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 シュナイダーハン(62)

2017.08.08 (Tue)
シュナイダーハン62
シュナイダーハン(Vn)/ヨッフム/ベルリンフィル(62、DG)は
独特のヴァイオリンの音色とシュナイダーハン版カデンツァ。

まずは、ヨッフム(1902~87)対シュナイダーハン(1915~2002)。
ヨッフムの率いるオケはもうこれ以上ないほど毅然として立派。
それに対するシュナイダーハンは外見に似合わず女々しい音(ほんとに失礼)。
今このような音を出すヴァイオリニストはまずいないのではないか?
と思っていたらCDショップの広告文言が答えてくれた。

『シュナイダーハンの芸風を一言で示せば、広い意味で「根っからの
ウィーンの芸術家」であるということになるでしょうか。
技術面で言えば、ヴィブラート(音の揺らし方)にドイツ・オーストリア系統の
特色が出ています。即ち、左手首をキリリと震わせて、幅の狭い、細かい
ヴィブラートを掛けるやり方で、彼の甘美で切ない音色の秘密ともなっています。
これは、現在の主流である幅の広い華麗なヴィブラートの掛け方とは
対極にあるやり方です。』

なるほど、併録のモーツァルトは違和感ないのも頷ける。
女々しいというのはウィーン風の甘美さというべきだった。

第1楽章に題をつけると『金色夜叉の寛一お宮に突然のトルコ軍の乱入』。
冒頭は当時のベルリンフィルのずっしり音が刻まれる。
それに対してヴァイオリンは実に頼りない音を纏綿繰り出す。
延々オケがヴァイオリンを蹴散らかしてたと思っていると
寛一お宮
そこに突然ソロの逆襲が始まる(カデンツァ開始19:30)。
キーキーわめき一生懸命抵抗するのだがまだひ弱。
そこにトルコの援軍(ティンパニ)登場(20:37)。
トルコ軍
これに意を強くして一層反抗する。
しかしそれも23:30にあっけなく終了し、
ヨッフムの率いるドイツ軍に簡単に丸め込まれてジ・エンド。

第2楽章はオケの手のひらで延々とすすり泣く。
ここでは気品を備える。

終楽章はようやく気を取り直してルンルンとステップ。
わがまま放題の少女といった感じで自分のテンポで踊る。
オケは相変わらず容赦なく剛毅のままだ。実に面白い。

なお、シュナイダーハンにはいくつかこの曲の録音がある。
カデンツァは53年フルトヴェングラー盤ではヨアヒム、
59年ヨッフム盤はシュナイダーハンの自作になり
本盤ではそれが更に手が加えられた改訂シュナイダー版となる。
いずれもベースはベートーヴェンがピアノ協奏曲への編曲した際の
カデンツァがベース。

録音はベルリン、イエス・キリスト教会(西独)でのセッション。
一聴してこの会場だと分かる美しい音。
オケはまろやかでソロもしっかりピックアップ。

24:35  10:49  10:54   計 46:18
演奏   女A+    録音  89点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 クレーメル(92)

2017.08.07 (Mon)
クレーメルアーノンクール
クレーメル(Vn)/アーノンクール/ヨーロッパ室内管弦楽団(92、TELDEC)は
意志的ユーモア。そのココロは5分に及ぶ第1楽章のカデンツァ。
現在聴かれる演奏の中では一番異彩を放つ。
それ以外の箇所は逆に非常に真っ当な演奏にして見せる。

このカデンツァはベートーヴェンがピアノ編曲した際に作ったカデンツァを
ピアノのパートとして持ち込んだ上に、ヴァイオリンも合体させる。
まさに鬼才クレーメルならではのアイデアだ。
ただ、あまりにも突飛過ぎて拒絶反応が出てもおかしくない。
この優美なヴァイオリン協奏曲の中に突然現れる不思議な異空間。
とはいえ、この80%はベートーヴェン自身のアイデアなのだ。
私はこのピアノ版カデンツァを聴くと、苦虫をつぶしたようなベートーヴェンの
壮大なギャクを感じて嬉しくなる。
観念的精神論の中軸に祭り上げられた楽聖がニヤリとしている姿を想像する。
彼だっていつもしかめっ面していたわけではない。
ベートヴェン笑う
なお、本演奏は自筆譜を再チェックしたうえで児島新が校訂した
ヘレン版新全集に依っている。テツラフ88年版もそうだったが
当時ベートーヴェンのスコアが見直され演奏も新たな視点が出ていた。

第1楽章冒頭からライブらしい覇気のある音。
室内管弦楽団とあるが会場の豊かな響きもあってフルオケ同様の響き。
クレーメルはアタックが強い。滑らかな美音というより、意志を持った音。
オケ、独奏共にぐっと力がこもり粗くなる寸前。テヌートも押しつけるよう。
深い沈み込みを見せたり、壮大なトゥッティを響かせるなど積極的。

さて問題のカデンツァ。
オケが止み18:17から突然ピアノ独奏が鳴りだす。
そこにクレーメルのヴァイオリンが協奏的に絡む。
更に19:45からはティンパニが乱入しピアノ、ヴァイオリンと三重奏。
ティンパニ含めそれぞれの主張が強い。23:16まで続く。面白い。

第2楽章は前楽章の破天荒なカデンツァのショックの後、
何事もなかったかのように厳かに始まる。豊かな情感があふれる。
クレーメルは甘さも併せて美しい。

終楽章は活力があり聴きごたえがある。
ヴァイオリンの逞しさと繊細さを交互に押し出す。オケはパワフル。
そしてここのカデンツァも短いながらピアノが挿入され
不思議な世界を垣間見せる。

録音はグラーツのシュテファニエンザールでのライブ。
KUG_Orchester_Stefaniensaal.jpg
2日間の収録で編集。休憩も含まれているが最後の拍手はカット。
聴衆を入れても響きの豊かなホール。
そうと書かれなければライブと気がつかないかも。
マイクセッティングもしっかり行き亘っているようでマストーンと
個々の楽器の両立がされている。

24:13 8:51  9:52   計 43:07
演奏   独A+    録音  92点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ベス(97)

2017.08.06 (Sun)
ベス・ターフェルムジクVncon
ベス(Vn)/ヴァイル/ターフェルムジク(97、SONY)は古楽器演奏。
ヴェラ・ベス(1946~)はオランダのヴァイオリニスト。
使用楽器は1727製ストラディバリウス・クレモナ。
TheatreBeths.jpg
同郷のアンナー・ビルスマ(1934~)夫人とのこと。
ビルスマ

演奏は指揮者ヴァイル(1949~)のペースに感じる。
Bruno_Weil.jpg
ブリュッヘンのような厳しい緊張感はなくこじんまりテキパキ演奏。

第1楽章は推進力あるテンポで開始される。
ピリオド楽器は減衰が速くヴィブラートもないので音価が切り詰められ
従って演奏時間が短くなるという様子がよくわかる。
そしてこれはヴァイオリンソロが出てきても同じだ。
モダン楽器で歌う演奏を聴きなれているとあまりのもすたすた行くので
物足りなくもある。またそうなるとどうしても表情の陰影が出にくくなる。
弦のザクザクした音や木管のひなびた感は独自の世界。

なお、カデンツァ(16:47~18:53)はアンナー・ビルスマによるもので
録音としては唯一ではないか?バッハ的バロック的雰囲気ものぞかせる。
甘いメロディを歌うわけではなく案外現代的ともいえる。

第2楽章は保有盤最短。
同じピリオド系のツェートマイヤー盤よりも2分長い。
必ずしもピリオドだから速いというわけではなくここではロマン的に歌う
のでなく潔く進むことを優先している。

終楽章もカデンツァはビルスマでそんなに長いことは無いが
バロック世界を垣間見せる。活力ある音楽で結ばれる。
オケの人数は少ないため大迫力ではなく室内合奏的な雰囲気。
Tafelmusik-1.jpg

録音はドイツ、バート・テルツホテルのクアザールでのセッション。
festsaal_hochzeit_02.jpg
マイクは近接しソロもオケも近いが響きは美しい。
スケール感は無く、広く透き通るというより小編成が凝縮された音。
ピリオド楽器特有のゴソッとした音。

19:56  7:11  8:46   計 35:53
演奏   A   録音  91点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ツェートマイヤー(97)

2017.08.03 (Thu)
Zehetmair beethoven
ツェートマイヤー(Vn)/ブリュッヘン/18世紀管弦楽団(92、PHILIPS)は
古楽器軍団による峻厳な演奏。
全体はブリュッヘン(1934~2014)が支配していると思う。
ブリュッヘン
オケの激しいアタックにつられツェートマイヤー(1961~)も強くなっている。
Zehetmair-Thomas_20170801225411ff6.jpg

第1楽章は速めのテンポで攻撃的。
ブリュッヘンのムード的でない容赦ない打ち込み。最初は驚く。
独奏はヴィブラートを極力排した直截な音。美音とは言い難く
中音域中心で少し擦れる音がする。その結果素朴な力を感じる。
この曲に甘い雰囲気を求めるとこの演奏は筋が違うが真摯な姿勢は好感。

17:12から(~21:13)はベートーヴェンがピアノ協奏曲に編曲したときにつけた
カデンツァをヴァイオリンで演奏している。
CDの表記に「カデンツァ:シュナイダーハン版」とあるのは間違いではないが
もとはベートーヴェンだ。
ただ、初めて聴いた人はまさかベートーヴェンがティンパニを打ち鳴らす
こんなカデンツァを作ると思わないからたまげるだろう。怒っている人もいた。
実際私も最初に聴いたときウソでしょ、と思った。
(↓ベートーヴェン自筆のカデンツァのドラムパート)
Beethoven´s own cadenza, bass drum part
ヴァイオリン協奏曲は1806年に作曲され翌年1807年にピアノ版に編曲された。
元のヴァイオリン協奏曲用のカデンツァをベートーヴェンが作曲せず
このピアノ版には自作を付けたのでややこしい。
更にこれが1811年の「アテネの廃墟」の中のトルコ行進曲や
1822年の献堂式序曲を先取りするような音楽だから驚くのだ。
ともかくこのピアノ版カデンツァを原曲に持ち込んだ最初がシュナイダーハンだ。
そしてこの盤のカデンツァはやはり攻撃的だ。
ただ、最初からの流れで聴いてくれば心の準備はできている。

第2楽章はガット弦ザラついた音色の中、独奏が精いっぱい歌う。
ノンヴィブラートといことではない。
現代楽器の突き抜ける伸びやかさはないが一生懸命さがいい。

終楽章は速いテンポで一気に持っていく。勢いが素晴らしい。

録音はオランダ・ユトレヒトでのセッション。
全体的にオンマイクで明晰。トランジェントが良好。音場は適度。

22:14  9:15  8:55   計 40:24
演奏   A+   録音  92点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 テツラフ(2005)

2017.08.02 (Wed)
テツラフジンマン
テツラフ(Vn)/ジンマン/チューリッヒトーンハレ管弦楽団(2005、ARTENOVA)
は新しい時代の名演。古式ゆかしい重々しさはないが、軽やかでチャーミング。

まずはテツラフが特筆。
1988年の22歳の時の旧盤は自筆草稿によるオリジナル譜を用いた快速演奏で
趣向は凝らされていたが、感銘度はこちらの方がずっと上。
やはり17年という時間はヴァイオリンを深めた。ニュアンスにぐっと奥行きが出た。
Christian-Tetzlaff.jpg

また、ジンマンの方も彼の交響曲全集ほどの奇抜・斬新さを打ち出さない。
が、入念かつ気概を持つ。

第1楽章颯爽としたテンポで始まるが軽々しくはなくトゥッティは力感がある。
ヴァイオリンは表情豊かな柔らかい音で旧盤の生硬さとうって変わる。
教科書的な弾き方ではなく積極的に情感を投入してくる。
18:11(~21:40)からのカデンツァは旧盤と同じピアノ用に編曲したものを
ヴァイオリンに戻して弾いている。従って、途中からティンパニが登場するが控えめ。
まあ、こちらの方がさらりとしていてノーマルなのだろうが。

第2楽章は爽やかだ。テンポがもたれずリズムが重くない。
ヴァイオリンの初々しい音色は聞き惚れる。
中音域がしっかりしてきたので高域の美しさが際立つ。

終楽章はソロもオケもイキイキ。
ここでも冒頭句に戻る前に2:05からピアノ版カデンツァがまず挿入される。
ロンドの中でふとセンチに歌うところなどいじらしい。
6:49から二回目のカデンツァをこなして颯爽と終わる。

録音はトーンハレでのセッション。ここは一度行ってみたいホール。
TOZ_Saal.jpg
響きはたっっぷりあるが鮮度もいい。
ヴァイオリンなど耳につく鋭さはなく、オケも抜けよく鳴る。

22:47  8:51  9:10   計 40:48
演奏   S   録音  93点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 テツラフ(88)

2017.08.01 (Tue)
テツラフギーレン    テツラフクアドロマニア
テツラフ(Vn)/ギーレン/バーデン・バーデン南西ドイツ放送交響楽団
(88、intercord)は実に興味深い。
(インターコードの原盤だが、クアドロマニアの協奏曲集にも入っている)

特徴は、①快速+②原典版使用+③ピアノ版カデンツァを逆使用。

クリスチャン・テツラフ(1966~)はハンブルク生まれでこの盤はデビュー盤。
22歳の彼の意図でここまで革新的挑戦をしたのか。
tezlaff1988_20170731234306085.jpg
おそらくテツラフを発掘したギーレン(1927~)の意向も大きいのだろう。
10774691.jpg

特徴① 全編一様に速い。
     長いカデンツァを挿入しても40分を切っていることで明らか。
     オケが単独で鳴るところでもスッタカなのでギーレンの仕業ではないか?
特徴② 原典版については現行版のスコアを見ながら聴いてみたが、
      6連符をトリルに変更程度しか確認できず大きな構成上の変化はないとみた。
特徴③ 第1楽章(510小節)と第3楽章の2か所(92小節、278小節)でベートーヴェンが
     この曲をピアノ協奏曲に編l曲した時につけたカデンツァをヴァイオリンに置き換え挿入。
     特に第1楽章のカデンツァは17:12から始まり18:22からはティンパニとの二重奏になる
     というビックリ版。これが21:51まで続く(なんと125小節!)。
     この趣向は他にシュナイダーハン盤(62)、テツラフ新盤(2005)、ツェートマイヤー盤で
     聴ける。さらにクレーメル新盤(92)はさらにピアノまでつけている。
     もしまだ接してない方はこのどれかを聴かれると面白いと思う。
     とにかく軍隊のようなティンパニに目を丸くされるだろう。

さて肝心の演奏だが、ヴァイオリンの長く伸ばし歌う部分がかなり短く切られる。
ロマンティックな演奏に慣れ親しんだ耳からすると相当ザッハリッヒ。
ヴァイオリンの音は細身で切れ味がある。
第2楽章もかなりあっさり。終楽章はあまり違和感がないが
とにかくいろんな意味で面喰い、慣れるまで覚悟がいる。

録音はバーデン・バーデン、ハンス・ロスバウト・スタジオでのセッション。
ソロ、オケともに明確に捉えられ不満はない。
鮮度・伸び・レンジ感など欲張ればあるのだが、まずは当時の標準をキープ。

22:57  7:36  9:10   計 39:43
演奏   革    録音  90点
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