クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

クラシック音楽のCDを中心に演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

指定期間 の記事一覧

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 スターン(59)

2017.07.31 (Mon)
バーンスタインスターン2
スターン(Vn)/バーンスタイン/ニューヨークフィル(59、SONY)は覇気。
若武者二人が感じたままの思い切りのいい音楽を作る。
bernstein stern
アイザック・スターン(1920~2001)はオイストラフと同じウクライナ生まれだが
すぐにアメリカに移住しそこで教育を受けているので
米国のヴァイオリニストといえるだろう。
ユダヤ系のためドイツに行くことは殆どなかったようで残された録音は米国中心。
よって独墺偏重のクラシックの世界では軽くみられる傾向があると思う。
しかしこのベートーヴェンなど全く本場物ではないが心に訴えかける。

そして本盤成功の一翼は上昇期41歳のバーンスタイン(1918~90)だ。
両端楽章のメリハリあるオケ、そしてラルゲットの深く沈みこむ世界など
まさにこの頃のバーンスタインの特質が如実。
そして一点の曇りもない39歳のスターンのヴァイオリンは巨大なオケに
凛とした音で対峙して気持ちよい。
この二人は多く協演し友情は終生続いた。
bernstein stern2
この後バレンボイムとの再録音(75年)があるが
残念ながらこの盤と空気が違う。

第1楽章冒頭の硬質なティンパニをクローズアップする収録は
その後も続き、この楽章のモティーフを明確にする。
序奏におけるオケの張った雰囲気も素敵。
スターンのヴァイオリンは丸い外見とは違い中高域が美しく安定感がある。
決して図太いラフな演奏ではない。
オケは重量感があり時に念を押すような溜めを用いる。
長大なこの楽章を飽きさせずに聴かせる。
カデンツァはクライスラー。堂々と逞しく弾き切る。

第2楽章はシュナイダーハン盤と並ぶ保有盤の最長。
多分バーンスタインの意向ではないか。
音符の多いところではより速く、少ないところではより遅くが
当時のこの指揮者の傾向。
単なる優美を越えたロマンの世界に引きずり込む。
この息の長いメロディをスターンは安定感で弾き切る。
過剰なヴィブラートでごまかさないのもいい。
そしてこの楽章のオケの最後のフォルテは思いが籠る。

終楽章はティンパニが活気を演出し明るい世界が開ける。
ここでのテンポは一転快活に。
大きなオケに負けずヴァイオリンは朗々と歌うのだが
デリケートな味も残す。
終結は爽快だ。

録音はブルックリンのセント・ジョージホテルでのセッション。
今聴いても明快な録音で当時の優秀録音。
ホテルで音場は小さいと思いきやしっかりスケール感がある。
ヴァイオリンはフォーカスされオケは左右に拡がるが定位はよい。

23:46  10:48  9:08   計 43:42
演奏   S   録音  87点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 オイストラフ(58)

2017.07.30 (Sun)
オイストラフ
オイストラフ(Vn)/クリュイタンス/フランス国立放送管弦楽団(58、EMI)は
大河の如く。全曲45分以上かけて大らかなタッチ。

ダヴィッド・オイストラフ(1908~74)はウクライナ出身の高名なヴァイオリニスト。
この人のイメージは見た目も含め「豊麗・豊饒」ということだろうか。
しかし古いソ連時代の自国作品の録音を聴くと激しく迫るものもあり
西側に出てきた時のイメージと異なるものもある。

この録音は50歳を迎えた彼が唯一クリュイタンス(1905~67)と
パリで協演した録音(演奏会の後収録)。
今の水準からするとテクニシャンという感じは無く、
ゆったり悠然とヴィブラートを駆使しながら大きな歌を歌う感じ。
時代を感じる様式だが、とにかく千変万化する表情には魅せられる。
この曲を弾きこんだ彼の歴史を感じさせる余裕だ。

ただ、オイストラフのこの曲では複数記録が残っており1965年の
コンドラシン/モスクワフィルとのものなどはもっとテンポが速く攻めている。
全ての彼の録音を聴いたわけではないが
少なくとも技術という面ではより洗練されたものがある。
とはいえ、豊饒オイストラフのイメージという点ではこの盤は合致している。

なお、カデンツァはクライスラーのものを使っているが、
これはオイストラフの美質を考えれば納得。

クリュイタンスのバックはソロをたて優美。
オイストラフクリュイタンス

録音はパリの体育館サルワグラムでのセッション。
ソロにフォーカスされ、オケは奥で拡散気味。
当時の協奏曲録音の典型か。しかし全体としてはリマスターよく、
この時代の録音としては聴きやすい。この会場の乾いた感も少ない。

25:26  9:45  10:25   計 45:36
演奏   A   録音  84点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ハーン(98)

2017.07.29 (Sat)
ハーンジンマンvn
ハーン(Vn)/ジンマン/ボルティモア交響楽団(98、SONY)は真っ直ぐ。
ハーン(1979~)はドイツ系アメリカ人でボルティモア出身。
この録音は18歳の時のもの。ディスコグラフィとしてはバッハに続く2作目。
恐れ入る。
テクニック的に全く揺らぐような所は無い。表現も間然とするところが無い。
ただ、酸いも甘いも知った表現を求めるのはお門違い。
色気や駆け引きなどはない。
むしろ若さの伸びやかさひたむきさを聴くべき。
またその後大人になってからの彼女の変化を知る原点として貴重だ。

全体としてはジンマン(1936~)はテンポを遅めにし彼女の美質を
引き出そうとしている。その点ではオケの伴奏も真っ当。
(↓ハーンを指導するジンマン 1998年)
ZINMAN-hahn.jpg
ジンマンは2005年にテツラフとこの曲を録音しているが
その時の伴奏はこの盤と全く違う。

第1楽章は冒頭のティンパニの4音型が70数回鳴るが、
ジンマンはこれを明確に鳴らし続ける。それがなにかミニマム的。
しかし、同時期のジンマンのベートーヴェン交響曲全集のような
個性的なピリオド奏法?をとりいれた自由な演奏ではなく規範的。

ヴァイオリンは先述の通りきっちり弾き込まれる。
音楽的な抑揚は勿論あるのだが、全く崩れを見せずに
通り抜けるものだからやや型どおりに聴こえる。
19:31からのカデンツァはクライスラー版。
若さに任せて過剰な表現になることは無く丁寧にしかししっかり。

第2楽章もゆったりとしたテンポで美しい音楽を奏でる。
ヴィブラートも適切に調整。

第3楽章も崩すことは無く堂々。オケも立派。

併録がバーンスタインの「セレナーデ」というのも面白いが
やや真面目ながらこの曲を味わうことができるのはうれしい。

録音はボルティモア・ジョセフ・マイヤーホフ・シンフォニーホール
でのセッション。J・マイヤーホフ(1899~1985)はウクライナ出身の
米国で成功したビジネスマン。このオケを金銭的に支援し続けた。
1982年完成したこのホールは改善が加えられ音響的に素晴らしい。
Joseph Meyerhoff Symphony Hall
以前はもっとデットな印象だがこの録音も拡がりを感じるものに
なった。ソニーらしく分厚くは無いが誇張ない音は好ましい。

24:25  9:47  9:43   計 43:55
演奏   A    録音  92点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ズスケ(87)

2017.07.27 (Thu)
ズスケ
ズスケ(Vn)/マズア/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(87、DS)は
清らか。心が洗われる。

ベートーヴェンってこんなに癒す曲を書いた人だっけと思ってしまう。
厳しさが足りないと言われそうだが、いつも鞭打たれていては人間持たない。
この癖のない凛とした音をきけば、作曲者も感涙ではないか。
ズスケ(1934~)は自己顕示しない美音で、
オケは落ち着いた包容力でベートーヴェンの束の間の春を感じさせる。

第1楽章冒頭の弦に乗る木管の音に痺れる。ゆったり気品のある進行。
そしてヴァイオリンがそっと入る。
ズスケは当時このオケのコンマスだったのだからこの同調感は納得。
協奏曲としてはあまりにオケと独奏が同方向すぎるかもしれない。
しかし、聴いていて実に心地がいい。
カデンツァはクライスラー。こんな端正で地味なクライスラーも珍しい。
「もっと見て見て」というのがクライスラーのイメージだが
ここではそんなことが一切ない。

第2楽章は優美の極み。
午睡したくなる。オケの弦の持続音に乗って独奏が歌うのが天国的。

第3楽章もこれまでの流れを引き継ぐ。
はしゃいで飛び跳ねるようなことではなくどこかつつましく控えめな表現。
いじらしいまで。
マズアの指揮も違和感なく、時にごりっとした低弦がいかにもこのオケだ。
1984_Masur_Suske_20170726223107717.jpg

録音は1981年にできた新ゲヴァントハウスでのセッション。
Leipzig,__Neues_Gewandhaus_,_Konzert
コンヴィチュニー時代のそれとは違う六角形。
演奏会では聴く場所によって音響が変化するかもしれないが
これはセッション。比較的広い音場。伸びやか。
オケ・独奏ともに距離感はあるが焦点はぼけておらず清涼感ある音。

24:42  9:40  11:09   計 45:31
演奏   A+    録音  93点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 シゲティ(61)

2017.07.26 (Wed)
シゲティ
シゲティ(Vn)/ドラティ/ロンドン交響楽団(61、PHILIPS)は”精神性”。
””でくくったのは、引用・受け売りだから。

このCDの解説は故・宇野功芳さんによるもの。
『あふれる精神美~ヨゼフ・シゲティの芸術』という題で認められている。
クライスラー、エルマン、ティボーなどの歌うヴァイオリンに対して
シゲティは『厳しい精神によって音楽の内奥に肉薄した』とのこと。
そしてシゲティはヴァイオリンのような深みに乏しい楽器で
敢えて流麗な弾き方や甘美な音を避けていた、とも。
『音もかすれ気味だし、ヴィブラートも粗くなりすぎ、音程が絶えず揺れている
ので、気になる人もいるだろうが、内容表現の深さはそれを補ってあまりある。』
と結んでいる。

なるほど・・・。

素人の私が聴いてもこのヴァイオリンは痛々しい。
ただ、聴いていてハラハラしてしまい音楽的な感動に至らなかったのは
私の補う力の未熟さ故だと思う。
シゲティとしては以前のモノラル録音のほうが私には良かった。

どこかに「小学生のヴァイオリンの発表会をモノラル録音して独大家名で
出せば日本では『精神性が高い演奏』と高評価される」などという
驚くようなことを書かれていたことを思い出すが、
勿論この演奏はそんなことはない。

なお、カデンツァは第1楽章(20:33~23:42)はブゾーニ、
第3楽章はヨアヒムという珍しい組み合わせ(以前は両楽章ヨアヒム版)。
ブゾーニのそれは技巧を見せびらかすのでなく現代的でセンスが良い。
ただ、案外メロディアスで歌っており宇野氏のシゲティ論と
必ずしも一致していない。

ドラティ指揮のオケは気迫のこもった演奏を展開するし、
ヨレヨレのヴァイオリンをしっかりサポートして立派。

録音はワトフォードタウンホールでのセッション。
この時期の録音としては満足いくもの。
鮮度はさすがに落ちてゴロもあるが、低域からしっかり入る。
ただ全体にセピア色の懐かしい感じを受けるのは演奏によるものかも。

24:57  10:26  9:30   計 44:53
演奏   ?    録音  86点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(フルート版) ベネット(87)

2017.07.24 (Mon)
ベネットフルート版協奏曲
ベネット(fl)/ベットフォード/イギリス室内管弦楽団(87、CAMERATA)は
なんとフルート協奏曲。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は作曲者自身がピアノ協奏曲に
編曲しているがこれはベネット自身によるフルート版。

ウィリアム・ベネット(1936年~)は、イギリスのフルーティストだが
ランパルやモイーズに学びフランス的ともいえる優雅さが特色。
ベネット
LSOやECO、アカデミー室内Oなどの首席を務めたが近時は指導者とのこと。
その彼がなぜ壮年期にベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲をフルートに
編曲しようと考えたのかの背景はライナーには記されていない。
推測では原曲は技巧的でなく抒情性に溢れ、重音などの奏法のないので
フルートでも再現可能と判断したのだろうと。
さてこの試みは成功しているか。

第1楽章ゆったりした牧歌的な導入。
3分半ほどしていよいよフルート登場。
最初はヴァイオリンの音に比べてか細い音に戸惑う。
更にやたらテンポが遅いのにまた戸惑う。
技術的に速くできないわけでなく、敢えてこのテンポでやっているのだ。
この曲が静謐でそよ風のように聴こえる。
ベートーヴェンの意志的な逞しさとは違う世界。これは不思議な感覚。
この穏やかな景色が延々続く。オケも控えめな音量で対応。
ただ、フルートの音域の限界は感じる。
ヴァイオリンの高音域の凛とした伸びのある音が出せない。
多分ゴールウェイあたりだともっと華麗なテクニックで魅せるところも
ベネットは地味だ。遅いインテンポが鈍重さを感じさせる。
こうなると逆にヴァイオリンという楽器の表情の豊かさを思い知る。
20:44から21;21はベネット作の短いカデンツァ。経過句程度。

第2楽章ラルゲットはもともと優美な曲であるので違和感は少ないが
案外フルートの特色が出ない。

第3楽章は一番効果的と思われた。
事実リズミックに歌う場面はきらりと美しい。
しかしながらもっと快適な速度で弾んでくれたらと思う。

正直言って併録のシュヴィンドゥル(1737~86)のフルート協奏曲の
ほうがフルートの魅力を生かした佳品と感じられた。
最終ロンドなどとてもかわいらしく思わず口ずさみたくなる。

録音はモルデンの聖ピーターズ教会。
St20Peters.jpg
音場は広すぎず清涼感のあるまっとうな音。
独奏、オケの距離感は近接ではなく力強さに欠けるが演奏自体に沿っている。

22:35  8:35  10:22   計 41:32
演奏   穏    録音  91点 

バーンスタイン ミサ オールソップ(2008)

2017.07.17 (Mon)
アールソップバーンスタインミサ
オールソップ/ボルティモア交響楽団他(2008、NAXOS)は司祭に注目。
作品全体の衝撃ではバーンスタイン自身盤、K.ヤルヴィ盤や井上の公演の
ほうが上だが、主役の司祭の個性ではこれが一番。

司祭役のJ・サイクスはアフリカ系の黒人バリトンでクラシックのみでなく
ゴスペル、ジャズなどの分野で活躍する。
最初の「シンプルソング」の歌唱から従来のクラシック系の歌唱と異なる。
すれっからしでシャウトやハスキーを駆使。
他の盤がまともな司祭が狂っていくのに対して、本盤は最初から崩れた雰囲気。
他のストリート・シンガーが真っ当だったりするので
ちょっと逆じゃないかという感じもあるが・・・。
終盤の「聖体分割」におけるサイクスの歌唱は張りがありスピーディで劇的。
MassGroup.jpg
mass_600.jpg
一方、音楽全体のつくりはオールソップらしく真面目で丁寧。
指揮者オールソップ(1956~)はバーンスタインに憧れ、そして師事した。
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前任のボーンマス響時代から師であるバーンスタインの作品を録音し、
2007年にボルティモア響の音楽監督になっていち早く取り組んだのが
この曲の上演・録音。彼女自身ジャズや他分野とクラシックの融合を
目指す活動をするなどまさにこの曲にうってつけ。
師の音楽に最大限の敬意を払っている。
終結はこの演奏でも実に感動的。

録音はボルティモア、ジョセフ・メイヤーホフシンフォニーホールでのセッション。
joseph meyerhoff symphony hall
最近のナクソスの録音は素晴らしい。誇張が無く耳に厳しいことは無い。

104:01
演奏  A    録音  94点

バーンスタイン ミサ 井上道義(2017)

2017.07.16 (Sun)
バーンスタインミサ公演ポスター
井上道義/大阪フィルハーモニー交響楽団他(2017、公演)は感謝&感涙。
初めてこの作品を劇場でシアターピースとして観た。そして感動した。
わざわざ大阪まで行った甲斐があった。

日本で23年ぶりの公演(フェスティバルホール)。
総監督・指揮・演出を手掛けた井上道義、関係者の情熱に頭が下がる。
たった2回の大阪での公演では全くもとがとれない多彩な出演陣と演出。
オケはもとより18人の歌手、児童合唱、バレエダンサー、合唱団、
ロックバンド、ブルースバンド、ブラスバンドの面々200人。
それぞれのパートごとの練習などがブログに上がっていたが
ここから皆の熱意が溢れ出ていた。

この作品の主題は解説書で以下のように説明されている。
 ①宗教的テーマ : 宗教宗派間対立ではなく個人の信仰の重要性。
 ②政治的テーマ : 作曲当時のベトナム反戦、平和への希求。
 ③音楽的テーマ : 音楽のジャンル、垣根を払拭する試み。

一方、今回の演出の最大の特色は
バーンスタイン自身の個人的内部葛藤に焦点を当てたこと。

ミサの進行役である「司祭」を「バーンスタイン」と見据える。
冒頭、作曲に勤しむ人物(バリトン:大山大輔)の姿から始まる。
その彼が「シンプルソング」を歌っている途中から
「司祭」に祭り上げられる(祭服を着させられる)。
「司祭」はミサの進行とともに周囲の影響も受け
アイデンティティの混乱と自己崩壊を起こす。
本当に在りたかった「彼」と周囲が既定する「彼」がずれてくる。

これはまさに、バーンスタイン。
シリアス作曲家として評価されたかったミュージカル作曲家、
指揮者、ピアニスト、TV解説者である才人。
一般的人気は得ても、批評家から辛辣に否定され続けた音楽家。
バイセクシャルが暴かれヘビーな飲酒と煙草で体を痛めつづけた個人。

『この作品は私のすべてであり、私の人生だ』とバーンスタインは
かつての日本公演に向けて語ったというが、本音だろう。

さて今回の公演だが非常に丁寧に作られたと思う。
この曲は殆ど演奏されずCDも半世紀近くたっても4種のみ。
当日の聴衆があまり作品に馴染んでいないことが念頭に置かれたと思う。
舞台中央の字幕で台詞が出たのも手助けだ。
ただそれでも英語、ラテン語、ヘブライ語、日本語、関西弁が入り混じり、
多彩なジャンルの音楽と宗教儀式を背景とするこの作品に初めて出会うと
戸惑うだろうし、実際理解できなかった「招待客」も多数いただろう。

私など最初のシンプルソングからこの作品の実演に接した感激で
ウルウルしてしまったが、隣のご婦人は時折ウトウトされていた。
ただ、それでも休憩後の後半1時間は怒涛の流れで会場は緊張感に包まれた。
「聖体分割:全てが崩れる」の15分の司祭の独白から
「平和・聖餐式:シークレットソング」での清らかな歌
(中1の込山直樹君のボーイソプラノ圧巻!)の場面ではこちらの涙腺も崩壊。
前半寝ていた隣のご婦人も目頭を何度もぬぐっていた。
これはまさに音楽の力だ。訳が分からなくとも心に響くのだ。
(↓大フィル公式ツイッターから https://twitter.com/osaka_phil)
バーンスタインミサ2
バーンスタインミサ大阪1
観終わって一般的に解説される上記①から③のテーマよりもバーンスタインの
個人的葛藤(=これは多かれ少なかれ多くの人が持つテーマ)が心に残った。
歌詞でも反戦関連の言葉が変更されたり、本来ソプラノ指示の「グローリア」の
「ThankYou」がカウンターテナーで歌われるなど井上の意図を感じた。
今回の演出方針は今後この「ミサ」が生き残っていく一つの方向だろう。

そしてまさにこの曲はシアター・ピースとして舞台を観て、四方からの音響を聴いて、
嗅いで(インセンス香が焚かれていた)など体感して本領を発揮する。

とにかく上演は困難を極めるが、恐るべき傑作であることは断言できる。
そして出演者、関係者のチャレンジ精神と情熱にも大いに刺激を受けた。深謝。

バーンスタイン ミサ K.ヤルヴィ(2006)

2017.07.14 (Fri)
kヤルヴィバーンスタインミサ
K・ヤルヴィ/ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団、アブソルート・アンサンブル
(2006、CHANDOS)は眩しいパワー。
音楽が活き活きとしておりバーンスタインの自作自演盤を忘れさせるような輝かしさ。

クリスチャン・ヤルヴィ(1972~)はエストニア出身の米国指揮者。
父ネーメ(1937~)、兄パーヴォ(1962~)は言わずと知れた大指揮者
姉マーリカ(1964~)はフルーティストと実に恐るべき仲良し一家だ。
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BBCミュージック・マガジンの表紙を親子3人の指揮者で飾った。
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そしてこの3人の指揮者の個性がそれぞれ違うのが面白い。
ネーメは万年青年職人、パーヴォは深読み繊細、そしてクリスチャンは革新派。
勿論まだ若いのでこれからどんどん変わると思うが、
ベルリンフィルに進出するなど活躍の場を広げており楽しみ。
昔はパーヴォもかなり思い切ったことをやっていたが、
今はクリスチャンのほうがキレキレだ。

そしてこのバーンスタインの「ミサ」。
バーンスタインに直接師事したのはパーヴォの方なので逆にこのミサ曲は
畏れ多い存在かもしれない。しかし、弟の方はその呪縛がない。
彼は各地でこのシアター・ピースを上演している。十八番なのだ。
(BBCプロムス2012でも上演⇒その際の動画はこちら
そもそもK.ヤルヴィが率いるアブソルート・アンサンブルという団体自体が
ジャンルを超えた楽器編成なのでまさにこの曲にぴったりだ。
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演奏はとにかく全編にハリがありパワーがある。
テンポは緩急があり飽きさせない。
リズムは弾みパーカッションの使い方が実に爽快痛快。
かと思うとグローリアでのソプラノ独唱はたっぷり清らか。
歌唱もストレートで張裂けんばかりの熱唱を繰り広げる。司祭も素晴らしい。
一気に最後まで持って行かれ、終結は劇的で感動的。
(上述の2012プロムス上演より、こちらのセッションの方が徹底し完成度高い)
(↓オーストラリアでの公演の様子)
kヤルヴィ
k.jpg

録音はオーストリアのサンクト・ペルテン祝祭劇場でのセッション。SACD盤。
festspielhausstpoelten2.jpg
音場・奥行き・伸び・透明感・帯域・迫力申し分ない。
パーカッションなど風圧も感じさせる。エレキやテープ音も汚くならない。
素晴らしい。

107:07
演奏    S   録音  97点

バーンスタイン ミサ ナガノ(2003)

2017.07.13 (Thu)
ナガノバーンスタインミサ
ナガノ/ベルリン・ドイツ交響楽団(2003、harmonia mundi)はノーブル。
バーンスタインの自作自演盤から30年あまり。
誰もしなかったこのミサ曲の録音に果敢にチャレンジした。

ケント・ジョージ・ナガノ(1951年~ )は、日系3世の米国指揮者。
バーンスタインとの交錯はどこなのかよくわからないが、明らかに使徒のひとり。
私の印象ではこの人は奇抜な音楽を作らずバランス感が効きスムーズ。
nagano.jpg

そして本盤も同じアプローチ。
バーンスタインが問題意識を剥き出しにして音楽が汚れるのも構わず
攻めた部分はここでは流麗になる。
歌唱も押しなべて伸びがよく美しく、癖がない。
速めのテンポが自作自演盤のような毒や棘を消している部分もあるが、
むしろクラシックやミュージカルを聴く人が違和感がないのはこちかもしれない。
バーンスタインによる70年代のロック・エレキの音は今聞くと古臭く
場合によっては老人が無理して若作りをしたように聴こえる。
しかし、このナガノ盤はその”ダサさ”を感じさせない。
ここら辺の音づくりに2世代くらいのセンスの格差を感じる。

バーンスタイン盤では終盤の聖体分割式で聖杯を叩きつけ粉々にする場面が
オドロオドロしく描かれるのに対して、ナガノ盤はスピーディに崩れを描ききる。
そのあとの静寂と「シークレット・ソング」はテンポを落としリリシズムを極める。
そう、ナガノはこの曲から最大の透明な美しさを引き出した。

ただ説得力はやはりバーンスタイン。
もうそろそろその呪縛から解放されなければならないのだろうが。

録音はベルリンのフィルハーモニーでのセッション。
2ch用なので定位はしっかり安定しておりここらへんも通常のクラシック的。
ハルモニア・ムンディ・フランスの録音陣のセンスも洗練されており
広がりと伸びの良さが心地よい。

105:59
演奏   A    録音  94点

バーンスタイン ミサ 自作自演(71)

2017.07.11 (Tue)
バーンスタインミサ曲
バーンスタイン/管弦楽団(71、SONY)は究極の自作自演盤。
これ以上の演奏が現れるとは思えない。それほどの内容。

しかし、作曲者の死後徐々に勇敢な挑戦者が現れている。
ナガノ盤(2003年)、K、ヤルヴィ盤(2006年)、オールソップ盤(2008年)。
そしていま最も楽しみにしているのが国内で23年ぶりのこの曲の上演。
(7月14日・15日、大阪のフェスティバルホール)
総監督・指揮・演出が井上道義で大阪フィル、大山大輔(バリトン)ら18人の独唱、
混声合唱、児童合唱、ジャズバンド、ブルースバンド、そしてダンサーら、
出演者の総勢200人とある。
これを見逃したら一生後悔するかもしれない、と思い大阪を目指す。

この「ミサ」は、バーンスタインがニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督を
退いた後、故ケネディ大統領の元夫人ジャクリーン・ケネディの委嘱によって
1971年に作曲され、J・F・ケネディ・センターのこけら落としとして初演された。
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ローマ・カトリックの典礼文(ラテン語)が用いられ、その形式に従っているものの、
純粋な宗教音楽というよりは、文字通り聖俗入り混じった舞台作品。
70年代初頭のアメリカを覆っていた不安や閉塞感を映し出し、
宗教的・政治的権威への疑問を投げかける内容となり、物議を呼んだ。
司祭(バリトン)は徐々に信仰の危機に陥っていく。
ミサは、司祭や信徒、ときには舞台上のロック歌手やブルースバンドなど、
様々な登場人物が典礼文を受けて発する英語のコメントによって
しばしば中断され、交わらない対話のようにして進む。
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この曲はたぶん正当に評価されていない、と思う。
まず音楽は極めて折衷的でクラシック的には軽く
各種他ジャンルの音楽形態が持ち込まれるためどの立場からも
中途半端とみなされる。専門家と称する人にとってはやっかいだ。
しかも内容が政治臭もあり宗教的にも問題が多い。

ただ、最初に接したとき、ノンポリ・無宗教・アマチュアである私は
楽しく美しいこの曲に感動した。何度も聞いた。
正直に言って内容は今でも深く理解できていないのだろう。
でも聴こえてくる音楽が素晴らしい。

そして指揮者としてではなく作曲家として認められたかった
バーンスタイン、その人自身の葛藤を思う。
アイデンティティを失った自己破滅的なあまりにも人間臭い天才の音楽だ。

コンサートの予習のために英国プロムス2012年公演を観ていたら
最後に感動で泣けてきた。

この曲は難しいことを考えなくても言葉がわからなくとも楽しめる。
冒頭の混沌からスクッと立ち上がる「シンプル・ソング」。
ここでぐっと掴まれる。
その後の混乱と浄化の過程に数々の印象的でメロディアスなナンバー。
そして最後の「シークレット・ソング」の清らかで感動的な終結。

録音は当時のSQ・4チャンネル再生を念頭にしたセッション。
別録のテープも使われ音場がぐるぐる回る。
ステレオでは左右の分離と移動が明快。当時の優秀録音。
ただアナログ時代なので電子音で少し濁りも感じる。

演奏  神  録音 88点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 ツァハリアス(89)

2017.07.09 (Sun)
ツァハリアス全集
ツァハリアス(p)/フォンク/ドレスデン・シュターツカペレ(89、EMI)は
明快な活力。直球でずばずば投げ込んでくる気持ちの良さ。

ツァハリアス(1950~)はインド生まれのドイツのピアニスト。
日本では話題にならないが彼のスカルラッティやモーツァルトや
シューベルトは好み。
ここでは彼の知的でスッと切れ味のある音楽が気持ちよい。
そしてこの盤を高めているのがルカ教会でのドレスデン。
なんといい響き。

第1楽章のオケは勢いと自信が漲る。ピアノも端正ながら活力がある。
全体として音楽が生きている。テンポはグールドほどではないが速め。
正攻法で曖昧さが無い。
カデンツァはベートーヴェン作曲のものをツァハリアスが編集。
ダラダラで見世物的に長くない。

第2楽章も音が立っている。タッチは明快でムード音楽化していない。

終楽章もカチッとは走る。アクセントはしっかり。
ピアノのタッチは強いが濁らないのがよい。

なお、最近は弾き振りでベートーヴェン全曲を再録音しているが未聴。
christian-zacharias.jpg

録音はドレスデン・ルカ教会でのセッション。透明な空気感が良い。
ピアノは比較的近い。オケは前面のピアノを包むように
木質シルキートーン。同じEMIでもロンドンではなくてよかった!

13:19  10:39  8:40   計 32:38
演奏   A 録音  94点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 ブレンデル(83)

2017.07.06 (Thu)
ブレンデルレヴァイン12
ブレンデル(p)/レヴァイン/シカゴ交響楽団(83、PHILIPS)は
スキップするよう。
若書きのこの曲をその通りに軽やかに聴かせる。
深みがないと言われればそれまでだが、この曲ではOK。

ブレンデルは単調ではなく変化を織り込む。
タッチは綺麗で叩きつけることはない。
ブレンデル(1931~)は70年代にハイティンク/LPO、
90年代後半にはラトル/VPOと全集を録音しているが、
こちらの全集はシカゴでの全曲演奏した時のライブ録音。
84年のレコードアカデミー大賞を受賞したというキャッチコピー。
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第1楽章序奏のオケは屈託なく明るく弾む。
そこに入るピアノも明快な粒立ち。
一方、中間部の遅い場面になるとぐっとテンポを落とし
ペダルを駆使しテヌート。表現の変化が大胆。
12:14から16:54はベートーヴェン作曲の長大なカデンツァ。
これ見よがしではなく軽々と弾きこなす。

第2楽章も明快で明るい。秋の風情ではない。

第3楽章は白眉。ブレンデルもオケものっている。
ブレンデルは見た目教授風だがここでは、
ライブということもあって活き活きノリノリ。オケも迫力がある。
演奏終了後盛大な拍手があるがそれもうなずける。

録音はシカゴ、オーケストラ・ホールでのライブ。
客席ノイズはほとんど気にならない。
ホール感はあるが各楽器もしっかり拾われている。
ピアノも遠くなく適切な距離感。ブレンデルの息遣いが聞こえる。
珍しいシカゴでのフィリップス録音だが
柔らかさと明快さが両立している。

17:13  11:42  8:39   計 37:34
演奏   A+   録音  93点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 レーゼル(91)

2017.07.01 (Sat)
レーゼルpcon1234
レーゼル(p)/フロール/ベルリン交響楽団(91、DS)は美しい。
単なる表面的な音の美しさだけではない秘めた憂いをも纏う。
自己顕示は無く健全な誠実さがある。
若い頃ならばこの演奏がこれほど佳いなんて思わなかっただろう。

サントリー山崎
『歳月には力がある。歳月を養分にして、この琥珀色は滴った。
だからピュアモルトの香りは、言葉に溶けてしまわない。
はっきりと呟きが聞こえる。凛としたモノローグである。
朴訥だが明晰。シンプルだが、奥が深い。
なんという矛盾だろう。
静謐があって、覇気がある。
ゆったりと、鷹揚で、大きな流れと、
縦横無尽に闊歩するものとが、同居している。
なにも足さない、なにも引かない。
ありのまま、そのまま。この単純の複雑なこと。』
サントリーピュアモルトウイスキー山崎の名コピーが
レーゼルのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集にそのまま当てはまる。
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繊細で均整のとれたピアノ、柔らかさと強さのオケ、清らかな響きの会場。
これらが若書きのこの第1番をここまで心に沁みいる音楽にした。
全てが自然の中で流れる。

なお、この演奏の更なる注目点は第1楽章のカデンツァ(12:50~15:12)。
ベートーヴェンの自作は3種。
①経過句のような短い版
③ピアニストの技巧を誇示するかのような5分に及ばんとする長大な版
③未完成版。
多くは②か①だと思うがここでは③をベースにしたもの。
この版を使用したピアニストは他に思い浮かばないが(リヒテル?)
程よいバランス感でいいのではないか。抒情的でくどくない。
レーゼルのセンスだろう。

録音は旧東ドイツのベルリン・キリスト教会でのデジタル・セッション。
Evangelische_Christuskirche_Berlin_Oberschöneweide
ドイツ・シャルプラッテン録音陣の最後の仕事期でこのあとエーデルに移行。
このレーベルのこの教会とドレスデンのルカ教会の音は好きなので
それだけで手が出る。清らかで伸びのよい音が気持ちよい。  

15:36  11:25  8:44   計 35:45
演奏   S   録音  94点
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