クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

Beethoven Pcon1 の記事一覧

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 タン(89)

2017.06.19 (Mon)
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タン(fp)/ノリントン/ロンドン・クラシカル・プレーヤーズ(89、Virgin)は
フォルテピアノによるコロコロ演奏。

メルヴィン・タン(1956~)はシンガポール生まれで英国を中心に活躍する
フォルテピアノの第一人者。
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さてこの演奏、モダンピアノを聴きなれていると最初は戸惑う。
木質で地味で減衰の早いフォルテピアノは乾いた音になる。
モダンピアノによる煌めきや表情の多彩を知っていると、
このくすんだ音色には不足を感じる。
モダンピアノがフォルテピアノを駆逐してしまったのは故なきことではない。
(なお、インマゼール盤のフォルテピアノはもっとモダンピアノに近い音が
しておりこの楽器の個体差の大きさを感じる)

しかし第1楽章のベートーヴェン作曲の長大な方の
カデンツァ(11:04~16:00)を聴いていると・・・発見した。
モダンピアノでこのカデンツァを弾くと5分に及びかつ
その華麗な音色が如何にも見せびらかしのようにくどく聴こえる。
ところがこの演奏で聴くと大袈裟にならず妙技が愉しめる。
そうか、ベートーヴェンの頭の中で鳴っていたのはこちらの方なのだ。

テンポはノリントンの方針もあるのだろうが一貫して快速。
第2楽章など通常11~12分だがこの演奏は8分。
ノンヴィブラートで全ての音がスパっと消えていく。
そうした意味での余韻に乏しくこのラルゴ楽章がアレグロに聴こえる。

第3楽章はこの楽器に最も沿うと思うが、音量が大きくないので案外地味。
ノリントンの伴奏はフォルテピアノの特性を熟知したうえで
この個性を生かそうというもの。小編成オケでどんな場面も重くならない。
リズミックで活き活きはノリントンのアドバンテージ。

録音はアビーロード第1スタジオでのセッション。
編成が小さいのでこのスタジオでも不満は無い。
響きは少ないが適度な潤いはある。

16:21  8:16  8:29   計 33:06
演奏   雅A    録音  90点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 バレンボイム(68)

2017.06.18 (Sun)
klemperer barenboim beethoven
バレンボイム(p)/クレンペラー/ニューフィルハーモニア管弦楽団(67.EMI)は
指揮者の演奏。
クレンペラー(1885~1973)82歳とバレンボイム(1942~)25歳の協演。
もうこれだけで勝負あった。
まずテンポが若者ののそれではない。バレンボイムはそれについていく。
また、ピアノ自体もポツリ系でクレンペラーが弾いているよう。
これ以降バレンボイムはこの曲を自分で弾き振りをしていく。
後年の録音は本盤とはずいぶん印象が違う。
ただし、カデンツァだけはこの時から自身で創作して意地を見せる。
(↓録音時既に指揮活動を行っていたバレンボイム)
バレンボイムとデュプレ

そもそもこのベートーヴェン全集はクレンペラーとフィルクスニーという
老大家同志で録音される予定だったが両者の健康面で問題が発生し、
当時新進気鋭のバレンボイムにおはちが回ってきたという。
クレンペラーはバレンボイムを高く評価していたが
結局はこの若者に主導権を渡さなかった。

第1楽章序奏の重く無骨な響きはまさにクレンペラー。
ピアノが入るまでにこの楽章の進め方は決まっている。
速く走りたいのを抑えてバレンボイムが入ってくる。
後年の流暢で抑揚の大きなバレンボイムとは違う。
13:54から15:48まで自作カデンツァ。
ベートーヴェンの作曲した長いカデンツァを半分に圧縮するが、
如何にもベートヴェンっぽい違和感の無いもの。

第2楽章も歩みは遅く鬱蒼としている。
表面上の美音が続くのとは違う音楽が流れる。
抑制された表情は渋い。

第3楽章はドイツ対ラテン。
オケは相変わらず正調なのだがピアノが目覚めていきいき。
ティコティコの場面など積極的。異質な文化の衝突が面白い。
(なお、カデンツァ終結7:05で明らかにテープを繋いだ跡)
とはいえ全体は若書きうきうき「第1番」としてははかなり異質な演奏となった。

録音はアビーロードスタジオでのセッション。
一聴しただけでこことわかる、ナローレンジで伸びの無い地味な音質。
オケの対向配置は分かる。
ピアノの音は必ずしも美しく録れているとは言えない。音の潰れなどは無い。

16:15  13:13  9:18   計 38:46
演奏   A-   録音  86点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 グールド(58)

2017.06.17 (Sat)
グールド1
グールド(p)/ゴルシュマン/コロンビア交響楽団(58、SONY)はめちゃ楽しい。
バッハ+ハイドン+ラテンのノリ。
両端楽章がリズミックで快速、中間ラルゴ楽章がしっとり歌う強烈な対比。
そしてバッハと現代音楽をMIXしたグールド独自のカデンツァ。
正統的な名盤とは言えないかもしれないけど、
この曲が好きな人なら一度お試しをと薦めたくなる。

グールドはバッハのほかにベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲がレパートリー。
特に第2番を偏愛していた。でもこの第1番はグールドにぴったりな気がする。

指揮者ウラディミール・ゴルシュマン(Golschmann, 1893~1972年)は
ロシア系でフランス出身の米国人。ハイドンの交響曲を大量に残しているが、
ここではグールドの音楽を活かしたよい伴奏。
(↓ゴルシュマンとグールドのレコーディング打合せ)
ゴルシュマンとグールド

オケはニューヨークフィルなどの抜粋メンバーによる。
ワルターが振っていた西海岸のそれとは違う。

第1楽章オケが速めのテンポで颯爽と入るが
グールドが入ると一層加速しコロコロと転がる。快速!
タッチはまさにグールドのそれ。ペダルなしのパルス的な刻み。
ただ、会場の響きがあるのでぽきぽき感は少ない。
そしてお楽しみカデンツァは10:31から。
なんと突然主題を用いたバッハの世界でフーガが始まる。
シンプルな世界から重層的なスケールへ。

第2楽章は一転もっとも遅い瞑想的ペース。
オケはしっとり流れそこにグールドの寂しげなピアノがポツリポツリ。
これまた独自の心象風景。

第3楽章はノリノリ。前楽章からアタッカで入り突然視界が変わる。
明るく眩しい。ハイドン的にウキウキする。
2:33からのティコティコのノリの良さは聴きもの。オケの相槌もよい。
こんなラテンの映像とシンクロする。
ピアノの粒立ちの良さが光る。
そして6:09からのグールドのカデンツァ。
ゲンダイオンガク風な混沌の世界から清涼な世界に戻る場面の効果が抜群。
気持ちの良い終結。

録音はニューヨーク30番街スタジオでのセッション。
30番スタジオのグールド
ステレオ初期だが響きをうまく取り入れ綺麗に録れている。
潰れもなく2010盤のリマスターがよい。
(第2番もステレオで入れ直してほしかった!)

12:20  12:07  9:04   計 33:31
演奏 楽S   録音 87点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 ケンプ(60)

2017.06.14 (Wed)
ケンプ11960
ケンプ(p)/ライトナー/ベルリンフィル(61、DG)は
チャーミング&びっくり。
洒脱でモーツァルトへのオマージュ的演奏。

私はケンプのピアノが何だか好き。
巨匠でもヴィルトゥオーソでもなくて少し枯れた感じもするけどでも親しみやすい。
ケンプは50年代にケンペン/BPOで一度全集を作っていてこちらの方は
オケも含めて一段と立派な音響だった。
しかし60年代のこのステレオ盤は独自の境地・風情。力が抜けきる。

そしてこの演奏でのびっくりお楽しみは両端楽章のカデンツァ。
ベートーヴェン弾きと称されたケンプ。
しかしここでは作曲家のカデンツァではなく自作を披露。
これが実に愉快。

第1楽章まずは立派なオケで序奏が奏でられる。
いよいよピアノ登場。肩すかしのような非力なピアノ。非力というのは語弊がある。
対抗対決など毛頭考えない自在なピアノ。ひらひら舞う感じはむしろモーツァルト。
フォルテではなく弱音で吸い込まれる。
12:48からのカデンツァは14:04までと作曲家の5分バージョンよりはるかに短い。
しかもそれが実にモーツァルト。
軽やかに転がる。ベートーヴェンのこれ見よがし感は全くない。

第2楽章は秋の気配。
モーツァルトの最後のピアノ協奏曲のように夕映えだ。
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終楽章は着崩し感。
オケはシャキッとしているがピアノはここでも妙な力みはない。
余裕を持った脱力はお洒落でもありジャジーでもある。
ラテンのティコ=ティコダンスもさりげなくすぎ驚きは6:42。
この楽章のカデンツアはあっという間に終わるのが大半だが
ケンプはここにお茶目をぶち込む。
聴いたこともない素朴でユーモラスなダンス。思わず吹き出す。
あれあれと目が丸くなっている間に終わってしまうのだが・・・。
そしてシフがモーツァルトの「魔笛」のパパゲーノのフルートと呼んだ
上昇音階(8:05)がこれまた差し込まれにやり。
ケンプ独自の演奏。愉しくかっこよくて粋だ。

録音はベルリンのUfaスタジオでのセッション。
あまり聞きなれない場所だが映画音楽の収録などに使われたようだ。
響きは美しい。
鮮度はさすがに落ちるがDGらしく派手さはないがしっかり綺麗に録れてる。

14:31  12:05  9:26   計 36:02
演奏   粋S    録音  88点

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 リヒテル(60)

2017.06.13 (Tue)
リヒテル1ミュンシュ
リヒテル(p)/ミュンシュ/ボストン交響楽団(60、RCA)は包容力。
これはピアノよりもオケに言える。
若書きのはずのこの協奏曲のスケールの大きさに驚くのは
音場を捉えた優秀録音のせいばかりではない。

リヒテル(1915~97)は1950年代まで西側に行けず「幻のピアニスト」だった。
父親がスパイ容疑で当局に銃殺され母親はすでに別の男と西独にいたため、
ソ連に未練のない彼を西欧に出したら亡命してしまう懸念を持ったからだ。

「雪解け」の時期にソ連に行ったグールドやクライバーン、ミュンシュが
彼の地でリヒテルを聴いて衝撃を受けて帰ってくるなど話題だけが先行した。
クライバーンとリヒテル

1960年初めて米国ツアーを許されたリヒテルの西側デビュー盤の一つがこれ。
リヒテルとミュンシュ
ボストンでコンサートが開かれそのあと同じメンバーでセッション録音された。
リヒテルはこのミュンシュ&ボストンのコンビに痛く感激した
(その前にシカゴで共演していたライナーとはウマが合わなかった)。

第1楽章は実に堂々。ゆるがせにしないテンポ。巨大な神殿のような安定感。
ピアノも美しくも悠然と進む。両者のスリリングな競奏というより巨大なモーツァルト。
12:44から始まるカデンツァはベートーヴェン作曲の3種のうち一番長いやつだと
思って聴いていると16:03に突如終了する。あの終わりそうで終わらない
長大なカデンツァの最初に終わりそうなところでぶった切ってしまったようだ。
確かにこのカデンツァの5分は長すぎるので気持ちはわかる!
リヒテルのタッチは力で押さない。

第2楽章はふかふかのベッドで羽毛に包まれるよう。ロマンティック。

第3楽章も慌てず騒がず立派で深い。
ただ、このロンドにしてはピアノは少し大人しい感じも。

リヒテル衝撃の西側デビュー盤を期待したところだが
ミュンシュの正攻な指揮ぶりに惹かれた。
Charles-Munch.jpg

なお同時期に録音された併録のピアノ・ソナタには圧倒される。

録音はボストン・シンフォニーホールでのセッション。
当時のRCAの優秀な録音陣によるもの。
ホールの広々感と煌めくピアノとマッシブなオケが捉えられている。
トッティでの飽和感もぎりぎりセーフ。

16:20  11:41  8:40   計 36:41
演奏   A    録音  87点
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