クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

Mendelssohn Sym3 の記事一覧

メンデルスゾーン 交響曲第3番 ドホナーニ(88)

2016.07.05 (Tue)
ドホナーニテラークスコットランド
ドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団(88、TELARC)は大人の演奏。
構築される全体の音響の中に美感を忍びこませる。
”スコットランド”という副題よりも純粋交響楽的。

全曲34分とフルオケの演奏では最速クラス。
76年のVPOとの旧盤も締まった演奏だが、それより更に2分半短い。
緩急少なく全体が一様に運動性をもつ。

オケの統率が抜群で隙のない演奏。
弦が厚みを持ってしなり、管は全体のバランスの中で鳴る。
ティンパニも要所は締めるが飛び出さない。誠に均整がとれている。
テンポに緩みはないが、楽器の浮沈で表情をつけていく。
全く派手さはないがこれぞプロの演奏と感じる。
クリーヴランドの整然とした音と言い管弦楽再現の見本のような演奏。

なお、この盤はこの交響曲と同時期の「最初のワルプルギスの夜」(op.60)
という珍しいカンタータが併録されている。
これはゲーテのバラードによる宗教的作品で、背景に共感のない身としては
没入できなかったが、極めて立派な再現であることはわかる。

録音はマソニック・オーディトリウムでのセッション。
(↓よく見ると面白い形状。多目的に使われる)
Masonic-Hall.jpg
テラークらしい肉厚な音。高解像度をひけらかすことはないこれまた大人の録音。
一定の距離感はあるが響きは多くない。
クリーヴランドではセヴェランスホールのほうが大きな空間を感じる。

12:30  4:22  8:18  8:54   計 34:04
演奏   A    録音  91点

メンデルスゾーン 交響曲第3番 スヴェンセン(2002)

2016.06.06 (Mon)
スヴェンセンメンデル3
スヴェンセン/スコットランド室内管(2002、LINN)はそよ風と疾風が交錯。
なんと言っても30名程度の室内オケのため重量感がないうえに、
表情自体がベトつかない。
ピリオド集団ではなく、音に癖はないがヴィブラートは控えめ。
テンポは速めで全曲33分半というのは保有盤最短。

オケ登録メンバーは1stVn8、2ndVn6、Vo4、Vc4、Cb2+ホルン5、2管、打。
SCOTTISH-CHAMBER-ORCHESTRA.jpg

ヨゼフ・スヴェンセン(1960~)は日本人とノルウェー人の両親のもと
米国で生まれでジュリアード音楽院で学んだ。
彼はスコットランド室内管弦楽団の首席指揮者を1995年から10年ほど務めたが、
今でも強力な結びつきがあるとのこと。
なお、このCDにはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も収録されているが
ここではスヴェンセンが弾き振りしている。

第1楽章の陰鬱な序奏も切ない歌に溢れる。
速いのだが悲しい表情で走る感じがする。決して単調ではなく細部に目が行き届く。
大きな節目でテンポは変転する。

第2楽章はさっぱりかける。各楽器が非常によく聴こえるのは編成と録音のよさ。
ただし、ティンパニは控えめ。

第3楽章はリズム・アクセントが明快で項垂れない。

終楽章もリズムが前傾で快速。威圧的な音を避け、スルスル進む。
あまりにも含みがないともいえるが、この交響曲の暗さが苦手な人にはうってつけ。
終結は密やかにそして爽快に。

録音はエジンバラのアッシャーホールでのセッション。
2900名収容の円形の大ホール。
この録音では近接で音を録り、音が止む時に響きを感じさせる巧い扱い。
HDCDのマークがあるが、非常に清涼感がある優秀録音。
スコットランド

12:07  4:12  8:22  8:49   計 33:30
演奏  A+   録音 94点

メンデルスゾーン 交響曲第3番 マーク(97)

2016.06.01 (Wed)
メンデルスゾーンマーク34
マーク/マドリッド交響楽団(97、ARTS)は端正ですっと立つ。
マークのスコットランドの中で一番軽く快活。
これはオケの音色にもよるのだろうが、
マークはここでは古典作品を扱うかのような表現に「達して」いる。

60年ロンドン響との押しつけがましさや、86年ベルン響との心細さはここにはない。
全てをくぐりぬけた一種の晴れやかさ爽やかさが漂う。

マークは60年代前半、40代半ばに思い立ち世を捨て禅の世界に入った。
もともと哲学を履修するような素養があったのだが、
出世への希求、他人への妬み嫉みが強くなった自身に気付き、
邪念粗雑物からの脱却を求めて修業に入った。

しかし、ある意味ではこうしたことができるのは羨ましい。
常人は働き盛りに世俗を捨てることなどできない。

それはともかくマークの「スコットランド」を並べて聴くと
彼の精神世界の変遷が見て取れるような気がする。
修行前のロンドン盤は世評が高いがこのころ彼は大きな悩みを抱えていて
それを吐露するような印象がある。
86年盤はすでに肩の力が抜けて虚無の世界すら見せている。
そして人生の終盤に録音されたこの演奏は嬉々とした明るさを獲得している。
捨てた後に得た幸福感に満ちている。
人間こんな風に生きることができたらいいな。
マーク

第1楽章はバランスよく歌とほの暗さが変転しながら進む。
ノーテンキではなくおさえるところを押さえているのが流石。

第2楽章はカラリとしている。

第3楽章は天上の安息の世界を垣間見るよう。

終楽章は落ち着いたテンポと抑制の効いた音で始まり徐々に感興を増す。
オケの編成なのか力みなく軽さを維持する。ティンパニの合の手がとてもいい。
問題の終結はじっくりとテンポを落とし深淵を彷徨った後、宙に昇る。
これが彼の辿りついた境地。

録音はマドリッドのオウディトリオ・ナシオナル・デ・ムジカでのセッション。
ES_Madrid_Auditorio_Nacional_de_M__sica.jpg
ヌケよくオン気味に捉えた明確な音像。
弦の擦れ感ある音など独自だが、ピリオド的な音色を持つ。
乾いた硬質なティンパニの音が気持ち良い。

14:07  4:32  10:17  10:45   計 39:41
演奏   A+    録音  93 点

メンデルスゾーン 交響曲第3番 マーク(86)

2016.05.31 (Tue)
メンデル3マークベルン
マーク/ベルン交響楽団(86、IMP)は驚くべき寂寥感。
この指揮者に何があったのかと思うほどのちょっと怖い演奏。

マーク3種(ロンドン、ベルン、マドリッド/都響は未聴)のスコットランドは
はっきり言って同じ指揮者のものかと思うほど違う。
その中で圧倒的な救いのなさ、哀愁に塗れているのがこれだ。
救いのなさと書いたが、そもそも救いを求めているようには感じられない。

ロンドン響のものは心に訴えかけが強いが、この段階ではどうだこれだけ
寂しいんだという表情が迫ってくるような押しの強さがあった。
これはロンドン交響楽団の立派さも手伝っていただろう。

しかし、この演奏ではそんな大袈裟な表情は全くない。
どうした、大丈夫なのかと不安に陥れられる。

後年のマドリッド響とのものは、もう突き抜けた古典的な潔さの世界に
身を置いているが、本盤は未だ現生の迷いの中を彷徨する。

マーク(1919~2001)、スイス・ザンクト・ガレン生まれのこの指揮者が
母国のオケと残した一世一代の”儚い”名演だ。
scottish1.jpg

第1楽章はこの演奏の白眉。
マークはこの楽章にこの曲の本質が全て投影されていると考えたのだ。
提示部の反復をして17分超と保有盤最長の演奏時間。
遅さは感じないし退屈を感じない。
冒頭の木管と弦のバランスが絶妙。絹のような弦に木管が冷風で並走する。
か細い歌が連綿と続く。オケの薄さが荒涼とした心象を映す。
長い序奏の後の主題提示も他に比べればよわよわしい。
しかし肝心なところでは弦も木管も意志的な表情を突如として露わにする。

第2楽章は一転軽やかに。何事もなかったかのようなこの変転が怖い。
ただし、金管のアクセントは奥に引っ込み激しくはない。
弦の掛け合い(対向配置?)は目覚ましい効果。

第3楽章へもアタッカで入りまたもや心細い道をとぼとぼ歩く様な
気配に包まれる。弦のヴィヴラートは上品なのだが・・・。

終楽章も含みを持った音楽。
前半のヴィヴァーチッシモからして快活一本ではない。怒涛の音響もない。
そして後半のマエストーソ・アッサイにかけてはじんわり。
問題の終結は音を粘らせ引きずるように進む。取ってつけた感はなく、
未解決の重いものをずっしり受け取ることになる。

録音はベルンのKultur Casinoでのセッション。
Kultur Casino, Bern
大きすぎず石造りのクールな美しい音響。
ベルン音楽公社音源をカールトン・クラッシクがライセンスを得てCD化している。
録音プロデューサーにトニー・フォークナーの名前がありこの録音の
レベルの高さに合点がいった。かといって作為的なものはなくむしろさらりとして
物足りないぐらいかもしれない。しかし、演奏のあり方と見事に合致した音だと思う。

17:17  4:17  10:38  10:39   計 42:51
演奏    寂S    録音  91点

メンデルスゾーン 交響曲第3番 ノリントン(89)

2014.08.31 (Sun)
メンデルノリントン34
ノリントン/ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ(89、EMI)は
古楽器を用いた先兵。
ロマン派に漬かった曲だと思われているが意外にも古楽により
この曲の素朴で逞しい表情が明らかに。
また、ノリントンの弾む指揮がこの曲に独特とのアクセントをもたらした。
ファイの刺激的演奏を聴いた後では今はこのような表現は驚かないが、
古楽器演奏の代表演奏であることは変わりない。
ザクザクっとした音に慣れると実に魅力的。

録音はアビーロード第1スタジオでのセッション。
小さな編成ではこのスタジオは良い。
響きすぎず透明感をもったまま温もりのある音。
ぎらぎら鮮烈でない。スケールは大きくないが、全奏は力づよい。

第1楽章冒頭から古楽器特有の音色と抑揚が
うらぶれた古城の印象とよく合う。テンポは通常。
主題の提示部も内省的で内に秘めた雰囲気を出す。
木管の音色が愛らしい。
弦は左右で掛け合うとともに時にポルタメントするのは驚き。
提示部のリピートを終えると展開部ではにわかに動感を増す。
「フィンガルの洞窟」ではないが波が打ち付けるような独特の脈動。
そして終結部はドラムが強打し激しく追い込む。
現代オケにはない音色。
そして冒頭が回帰される時の侘しさはなかなか。

第2楽章はこの楽章がスコットランド民謡・舞曲であると認識する。
素朴でドカドカ踊る。古楽器の朴訥さが活かされる。

第3楽章は長閑なアダージョになぜか不気味な鼓動を挿入させる。
確かにスコアには唐突に癒しだけでは済まない音が
含まれていると改めて気づく。
この曲に含まれる激しいドラマ、古城に潜む血塗られた歴史を彷彿。

終楽章は筋骨隆々。金管の図太い音がパワーをみなぎらせる。
ここでもノリントンの独自のリズム感が音楽を活かす。
全般を通してテンポは普通なのだがイキイキ感はこの指揮者に起因。
最後は輝かしい。ハッピーエンド。

15:16  4:37  8:19  9:10   計 37:22
演奏  古A+   録音 91点
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