クラシックCD聴き比べ ~ Classic CD Memos ~

クラシック音楽のCDを中心に演奏者への敬意を込めて、つたないメモを書いています。

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ヤンセン(2009)

2017.08.18 (Fri)
ヤンセン
ヤンセン(Vn)/P・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー
(2009、DECCA)はオケもヴァイオリンも表現意欲が強い。
このヴァイオリン協奏曲が退屈だと感じる向きにはいいかもしれない。

まずP・ヤルヴィだがノンヴィブラート主体のアタックの強い演奏。
引き締まった音で強弱の振幅は激しい。
このコンビのベートーヴェンの交響曲全集の延長にある。
単なる優美な曲ではなく、運命交響曲に連なる「意志」を強調する。

ヤンセン(1978~)も負けじと「見て見て!」と張り合う。
ヤンセン2
美音というより情感が溢れ出ている。
実に多彩でこの協奏曲を使ってヴァイオリンの表現の可能性を
追求してくれる。ただ、ただ・・・私にはどうも煩わしかった。

第1楽章のカデンツア(18:33~21:40)はクライスラー。
ここでもこれでもかという技を披露する。

併録はブリテンのヴァイオリン協奏曲。
実はこちらが目当てでこのCDを購入した。
この曲はまさに天才の作で、なぜ普及していないのか不思議だ。
そしてこのコンビのこの演奏は手に汗握る迫真の名演。感動した。
ベートーヴェンで煩わしいと感じた「意欲」がこちらでは心に刺さる。
ひょっとしたら、このブリテンを聴かせるためのベート-ヴェンだったのか?
だとするならば、プロデューサーの罠にまんまとハマった。

録音はハンブルグのフリードリッヒ=エベルト・ハレでのセッション。
Friedrich-Ebert-Halle2.jpg
ソロはオンマイクで弦の擦れ音まで明瞭に聴こえる。
オケも周囲に位置しギュッとした音作り。

22:56  8:20  9:25   計 40:41
演奏   A   録音  93点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) ムストネン(93) 

2017.08.17 (Thu)
41DZCWDAD6L.jpg
ムストネン(p)/サラステ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー(93、DECCA)は攻撃的。
ムストネン(1967~)はヘルシンキ生まれのピアニスト、作曲家、指揮者。
彼の演奏は何か問題意識を含むことが多い。
ここではヴァイオリン協奏曲作品61のピアノ編曲版を、作品61aとしてではなく
一つの独立したピアノ協奏曲として捉える。
自分で弾き振りした再録音(2008)があるし実演でもよく取り上げているようだ。

この演奏を聴いてまず感じるのはピアノの独特のタッチ。
ペダルをあまり使わず、鋭角的な音色で力強く進行。
最初堅過ぎると違和感があったが、彼がもとよりチェンバロを学んでいたことから
合点がいった。確かにそうした響きだ。
(この盤の併録はバッハのヴァイオリン協奏曲第3番をピアノ編曲したものだが
こちらの方がよりフィット感があるのはそうした故かも)

第1楽章は速めのテンポで行く。
サラステも速いテンポをとる指揮者だが、後のムストネンの再録音も速いので
両者の意見が合致しているのだろう。ピアノもオケも音を延ばさない。
ピリオド奏法とはまた違う独特な世界。
カデンツァ(16:50~21:03)の独奏は力強い。
猛烈なテクニックなのだが18:48のティンパニのクレッシェンドからは一層強固。
ただ、この演奏自体最初から攻めているので違和感は無い。

第2楽章は非常に特徴的。8分少々で駆け抜ける。
ピアノのポツポツした音がバロック的。

終楽章もキレがいい。エッジの効いた音で攻める。
半音階を含むカデンツァの上昇下降は機関銃のよう。

録音はブレーメン放送局でのセッション。奥行きのないデットな響き。
ゆえにピアノもオケも潤いに欠けるのが残念。
もとより演奏方針が明晰さを打ち出しているので
これはこれで在りかもしれないが。
ただピアノのタッチだけでなく響き自体が床の音を拾うような感じもする。

21:57  8:10  9:09   計 39:16
演奏    攻   録音  88点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(ピアノ編曲版) ヤンドー(97)

2017.08.16 (Wed)
ヤンドー
ヤンドー(p)/ドラホシュ/ニコラウス・エステルハージ・シンフォニア
(97、NAXOS)はたおやかな時が流れる。
ヴァイオリン協奏曲からの編曲であることを忘れさせてくれる。
ピアノとオケがうまく溶け合い一つの世界を作っているから。

その成功の要因はヤンドー(1952~)の節度あるピアノ。
ヤンドー 写真
この人はハンガリーの出身で母校のリスト音楽院で教鞭をとりつつ
ナクソスに大量の録音をしている。
ナクソスの方針がクラシックのエンサイクロペディアを作るというものだから
極端に個性的な演奏よりもスコアを端的に再現するこのピアニストはぴったり。
彼のハイドンのピアノ・ソナタは愛聴盤だ。

また、指揮者ドラホシュ(1952~)はハンガリー出身でフルーティストでもある。
Béla Drahos
ブタペストの録音用小編成の当オケとこれまたハイドンなどナクソスに
多くの録音を残している。彼もまた穏やかな指揮をする印象だが、
ここでも同郷人仲間で和やかな演奏をしている。

ということでピアノ協奏曲版ととしては一番好きな演奏かもしれない。
肩に力が入らず、録音も含めてすべて心地よい。

第1楽章のカデンツァ(18:07~23:05)はベートーヴェンが編曲時につけた
ティンパニを伴うもの。こうして聴くとやはりティンパニはヴァイオリンよりも
ピアノの方が合うと感じる。打鍵の進行に加わる打楽器は協調的。
この演奏のティンパニの粒立ちもよい。
ピアノも無理に強打しないのが好感。

第2楽章も抒情的でピアノが可憐。

第3楽章はもう少し迫力が欲しいと思う人がいるかもしれないが
このチャーミングな曲としてこれで満足。ピアノはあくまで端正で軽やか。

録音はブタペストのイタリアン・インステュチュート内の
フェニックス・スタジオでのセッション。
hungary-budapest-1.jpg
小編成のオケを過不足なく捉え、響きも綺麗。
ピアノとの距離、溶け合いも適切。

24:13  9:24  9:43   計 43:20
演奏   S   録音  92点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 シェリング(65)

2017.08.14 (Mon)
Henryk Szeryng beethoven
シェリング(Vn)/シュミット=イッセルシュテット/ロンドン交響楽団(65、PHILIPS)は
とてもいい。端正の中に大らかさがあり幸福感に浸れる。

シェリング(1918~88)はワルシャワ生まれでベルリン・パリで研鑽を積んだ。
ユダヤ系であった彼は率先してポーランド難民の受け入れをしてくれたメキシコが
大好きになって、46年には帰化しててこの地で後進の指導に当たる。
しかし、56年にたまたまメキシコを訪れていたルービンシュタインの目にとまり
世界の檜舞台に引っ張り出される。人生とは分からないものだ。

シェリングというとバッハを得意とする堅い真面目なイメージが強いが、
ラテン気質もあるのだろう。そしてそれはこの演奏からも感じられる。
Henryk Szeryng 写真
同じくバッハを得意としたシゲティとは全く違う。

第1楽章のオケはまさにSイッセルシュテット。
押しつけがましくなく聴かせる。中庸の美徳のよう。
そしてシェリングのヴァイオリンも同様だ。凝縮されたというより拡がる音。
しかし丁寧で細やかさも備えているので全く粗い感じにならない。
演奏のテンポはおっとりなので心も和む。

カデンツァ(20:10~24:17)はJ・ヨアヒムの改訂版。
joachim.jpg
この人はこの曲の初演38年後の1844年にメンデルスゾーンの指揮で再演し
この曲の真価を広めた名ヴァイオリニストでブラームスの友人。
ただ、最近はこのカデンツァを使った録音は見かけない。
割と地味だからか?
確かにヴァイオリンの名技性と歌を備え飽きさせないクライスラー版が
多いのはよくわかる。でもこのカデンツァも案外革新的で面白い。

第2楽章も安心もの。なお、この楽章と終楽章のカデンツァは
シェリングの師であったカール・フレッシュという人のもの。
多分唯一の記録ではないか。

終楽章も歌いながら軽くダンス。必死の形相はなくあくまでノーブル。
これはオケもそうだ。

録音はロンドン、ヴィクトリア&アルバート博物館でのセッション。
HamnettFig_-1.jpg
レコーディングの場所としてはあまり聞いたことが無いが豊かな響きでいい音。
ヒスは残るがヴァイオリンソロも綺麗に録れている。
但し、当時のテープ収録の限界もありコーダでは飽和感がみられるのが惜しい。

25:24  10:17  9:45   計 45:26
演奏   A+    録音  86点

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 クレーメル(80)

2017.08.12 (Sat)
kremer marriner
クレーメル(Vn)/マリナー/アカデミー室内管弦楽団(80、PHILIPS)は
全編真剣勝負。

クレーメル(1947~)はオイストラフに師事していたが
80年に西側に亡命してきたときには前衛ヴァイオリニストのイメージ。
その印象は話題になった本盤のカデンツァに象徴的だ。
彼の3種のこの曲の録音でカデンツァは75年盤はクライスラー、
本盤はシュニトケ、92年盤はベートーヴェン自身のピアノ編曲版。

とにかくこのシュニトケ(+クレーメル)のカデンツァが強烈。
しかしてそれ以外の部分はというと実に真摯で曖昧さが無い。
余裕を見せた92年と比べてこちらは張りつめている。

第1楽章のオケの導入はマリナーにしては力感がある。
そしてヴァイオリンが更に強固に入る。真剣で向かってくる。
甘美とか優雅という言葉とは遠い。オケも独奏も苦しいくらいに迫る。
ソロの中音域は図太く高音域は時にヒステリックですらある。
オケはどこまでも決然としている。

そしてカデンツァ(18:52~23:07)。
シュニトケのそれはニコリともしない。
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この楽章の動機、ヨアヒムのカデンツァ、ベルク、バルトーク、
ブラームスがコラージュ。ティンパニのクレッシェンドは
ペンデレツキのヴァイオリン協奏曲(第1番のレント部)とそっくり。
ともかくシュニトケらしく漆黒の闇を感じさせる。
殆どカデンツァの域を超えている。

第2楽章は前楽章の闇から救われる。
ただ、ここでも単に美音を振りまくという雰囲気は無く、
何かを希求し手を差し出している。

終楽章も気合が入っている。
オケの弦は終始一貫16分音符の刻みを強調する。
そしてまたもやカデンツァ(6:46~8:37)が凄い。
この楽章のモチーフから開始するが
どんどん外れて鬼気迫る暴風雨に。
その後正気を取り戻すが恐ろしい白昼夢を見てかのごとく。
呆然となっているうちに終わってしまう。
こうなるとこれを単に「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲」と
言ってしまっていいのか。それくらい既成概念を覆す演奏。

録音はロンドン・ヘンリーウッドホールでのデジタル・セッション。
ヴァイオリンはオンマイク、オケは左右に拡がるが
ややソフトフォーカス。ソロは決して美しいという音ではないが
これはこの時のクレーメルの音なのだろう。

24:09  9:55  10:20   計 44:24
演奏    衝    録音  90点
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