2023.09.24 (Sun)

バレンボイム(P&指揮)/イギリス室内管弦楽団(68、EMI)は
第2楽章が保有盤最長。そのことが示すようにとても濃厚。
このロマンティックは映画「みじかくも美しく燃え」に触発されたのかと思った。
映画の制作は1967年、本盤の録音は1968年だから。
映画は『19世紀のスウェーデンで実際に起った事件が題材。
既婚者の伯爵と美しい綱渡り芸人エルビラ。
恋に落ちた2人は、周囲の抑制を振り切って駆け落ちする。
逃亡生活の末、運も金も尽きてしまった彼らは、ある決断をする……。
衝撃のラストシーンと、全編に流れるモーツァルトのピアノ協奏曲第21番が
話題を呼び、当時日本でもヒットを飛ばした悲恋物語。』というもの。

映画はとても耽美的。そこに静かに寄り添うモーツァルトは
そよ風のようであって欲しい。
そうした意味では映画で使用されたアンダの演奏はフィットしている。
それに対してこのバレンボイム(1942~)は少しぽっちゃり。
まあ、これは勝手に映画を軸にして言えばの話。
演奏自体は26歳にして弾き振りしている彼の意欲が良く表出されている。
オケはおっとり感があるが、彼のピアノは溶け込みながらも粒立ちが良い。
そして時に見せる繊細で思いの表情がいい。
第2楽章の遅さはやや息も絶え絶えという気もしないではないが・・・。
全般に大家になって自信満々というのとは違う。
カデンツァはバレンボイム自身のもの。
録音はアビーロードスタジオ1でのセッション。
こじんまり感のある音場だが不足はない。
録音は古く鮮度はやや落ちたが鑑賞に問題はない。
14:30 8:34 7:38 計 30:42
演奏 濃A 録音 87 点
2023.09.23 (Sat)



カメラータ・ケルン(2011~15、CPO)は鄙びた落ち着き。
カメラータ・ケルンはオトテール(1674~1763)の室内楽全集として
3セット4枚のCDを録音している。
それらはどれも密やかな愉悦を提供してくれる。
木管は横笛のフラウト=トラヴェルソ、縦笛のリコーダーが適宜使われる。
17世紀の終わりにオトテールが、トラヴェルソを改良し、
独奏楽器としての機能を確立した。こうして表現力を拡大したことや、
フランスやドイツの名人が輩出したこともあり、
貴族や愛好家の間で広く使用されるようになり、
その後の(モーツアルトなど)古典派時代には横笛のフルートが主流となった。
オトテールはこうした時代の分岐にいたわけだが、
リコーダーの清らかさに対してトラヴェルソはより温かくソフトな印象。
バロック時代のトラヴェルソはほかの楽器との溶け合いが良いが、
古典派以降のフルートはより輝きをまし独自の存在感を主張する楽器となった。

このCDに収められたトラヴェルソはフルート以前の優しい響きを奏でてくれる。
演奏のカメラータ・ケルンはこの分野のスペシャリスト。

リーダーのシュナイダー ( Michael Schneider, 1953~)は、ドイツのリコーダー奏者、
フルート・トラベルソ奏者。1979年カメラータ・ケルンを創設し長く活躍している。
教鞭をとる彼の性格もあるかもしれないが、とても真面目で誠実な印象を受ける。
<第1集>
フルートとその他の楽器、通奏低音のための小品集 Op.2(初版)より
組曲第1番~第5番
<第2集>
①6つのトリオ・ソナタ Op.3(1712年、パリ)
② 前奏曲 ト短調 Op.VIIe
③ 組曲第3番 Op.8(1722年)
④ 組曲 Op.2から3つの小品
<第3集>
① トラヴェルソと通奏低音のための組曲ト短調 Op.5-1
② 2本のトレブル・リコーダーのための第1組曲 Op.4
③ ブーセ氏/オトテール:『Airs Ornez d‘Agremens』より
トラヴェルソのための独奏曲
④ リコーダー独奏のための『前奏曲の技巧』 Op.7より前奏曲
⑤ ロベール・ヴァレンタイン/オトテール編:
2台のヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ ホ短調
⑥ リコーダーと通奏低音のための組曲/ソナタ ヘ長調 Op.5-3
⑦ トラヴェルソと通奏低音のための組曲ハ短調 Op.5-2
⑧ リコーダー独奏のための『前奏曲の技巧』 Op.7より前奏曲
⑨ 2本のトレブル・リコーダーのための第2組曲 Op.6
⑩ ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲/ソナタ ロ短調 Op.5-4
⑪ 2本のトレブル・リコーダーのための第3組曲 Op.8
録音はドイツ放送室内楽ホールでのセッション。

教会ほどの響きはないが適切な空間をもち
すっきりと素直に音にまとめられている。
第1集 75:15
第2集 75:15
第3集 133:51
演奏 A+ 録音 95点
2023.09.18 (Mon)


アラン=デュプレ(フラウト・トラヴェルソ)他(95、NAXOS)は
悠久の時を超える。
心がとろけていく。
オトテール(Jacques-Martin Hotteterre, 1674~1763)は

フランス・バロック時代に活躍したフルート奏者、作曲家。
若いころにイタリア留学をしているので”ル・ロマン”といわれることもある。
”太陽王”ルイ14世(1638~1715)の王室付きフルート奏者として活躍した。
当時のパリはクラブサンと並びフルートが人気の楽器であった。
オトテールに続くフルートの大家にプラヴェ(Michel Blavet, 1700~68)がいる。
オトテールの「牧歌的・悲し気」に対してプラヴェは「躍動的・感動的」といわれる。
私はオトテールの「崩れそうな甘美」に癒される。
ほんのり「デカダン」の香りもする。
疲れた時、暑い日などに大管弦楽を聴くのはしんどい。
モーツァルトも元気過ぎる、などと感じるときに
このような密やかな曲に手が伸びる。
ゆったりベッドに横になって流していたりすると優雅な午睡気分。

オトテールの魅力に気づかせてくれたのはこのナクソスの2枚のCD。
第1集は1708年作の「フルート他楽器と通奏低音のための作品集」
第1巻作品2から4つの組曲他、
第2集は1712年作第2巻作品5から4つの組曲他。
楽器はバロック・トラヴェルソ・フルートの他ヴィオラ・ダ・ガンバ、テオルボ、
ハープシコード、リコーダー、フルートなどが適宜参加。
各組曲は7から12曲から構成され、それぞれは1から3分程度。
曲には人名、地名、抽象的形容詞などの副題がついていたりする。
全体は舞曲をモティーフにしたものが多い。
いずれもほわっとほんわかする貴族的で趣味のいい曲。
バロック・フルートが中心になるが、当時は柘植などでできたまさに木管楽器。
光り輝く感じではなくもっと落ち着いた柔らかな音が特徴だ。
演奏のアラン=デュプレはベルギー生まれの横笛奏者。
実に優しい音を奏でてくれる。

録音は南仏、タルン聖イッポリト教会でのセッション。

田舎の石造りの小さなホールだが豊かで
温かい響きはこの曲の再現にふさわしい。
第1集 72:00
第2集 71:46
演奏 S 録音 95 点
2023.09.04 (Mon)

ギーレン/SWR交響楽団(97,Hänssler Classic)は大変な演奏。
思わず引きこまれる鮮烈な音のシャワー。
情報量が物凄くこの曲を聴きなれた人でもハッとさせられるだろう。
ギーレン(1927~2019)は1980年代までは鋭利快速というイメージだったが、
それ以降は良くも悪くも丸くなった感がある。

ここでは良い方に作用した。
同じ作曲家でもあるブーレーズと似た変化だが
本盤はブーレーズ以上の名演。
徹底した譜読みと精緻な音楽づくりは以前より一貫している。
それに加え多彩な表情が加わった。
また南西ドイツ放送交響楽団がいい反応だ
(ここのフルートの音はすっとしていて好き)。
本盤は録音がクリアーで非常に明快に聴こえる。
ギーレンが物凄く細部にこだわって表情付けをしているのがわかる。
弦のフレーズや弓の擦れ音。「ダフニスの優雅な踊り」でのトロンボーン
のグリュッサンドなど思わぬ仕掛けがある。
場面に応じたテンポの緩急も自在。
第2部の「クロエの踊り」の表情付けなどかつてもクールな
ギーレンでは考えられなかった。
第3部に入るとその呼吸感が素晴らしいが、それと共に
精妙な弦の動きに耳が引きつけられる。
「パントマイム」はテンポを遅く取り神秘感がある。
終結は巨大なスケール。
最後の一撃が終了した後はぞくぞくする。
録音はフライブルク、コンツェルトハウスでのセッション。

フライブルグはドイツ南西部、フランスとの国境近くで、古い街並みが残る。


3日間の収録が記載されているが
コンサートと並行して行われたものかもしれない。
ホールは広く音の伸び、ダイナミクスは十分。極めて鮮明な音がしている。
かつては「ARTE NOVA」の廉価盤で発売されていたが

それは全曲がトラック1だったので要注意。
それさえ我慢できれば演奏・録音はピカイチなので超お得盤だった。
57:45
演奏 S 録音 95点
2023.09.03 (Sun)

デュトワ/モントリオール交響楽団(80、DECCA)はやはり巧い。
アンセルメ(1883~1969)の後継者デュトワ(1936~)の面目躍如。

彼は1977年モントリオール響の音楽監督になって
優秀なデジタル録音を大量に世に送り出した。
交響曲ではなく通俗管弦楽にフォーカスする戦略は当たり、
独自のポジションを築いた。そうした成功の最初期のものが本盤。
個人的には器用だけど本音が見えない彼の音楽には
あまりのめりこまないのだが(セクハラ事件で一層距離感)、
このようなバレエ音楽は残念ながら巧いと認めざるを得ない。
アンセルメ推しの故・志鳥栄八郎氏は『アンセルメ盤と肩を並べる』と
ライナーノートに書いているが、録音もオケもこちらの方が上質だ。
とにかくそつがない以上に情景描写も的確。メリハリにも不足しない。
贅沢な不満があるとすれば、終結も含めての予定調和感。
さて、全編で目立つのがフルート。
ティモシー・ハッチンズ(Timothy Hutchins、1954)は

カナダのフルート奏者でこのオケの首席。
ソリストとしても活躍しているとのこと。聞き惚れる。
録音はモントリオール、サントゥスタッシュ教会でのセッション。

デッカの優秀録音は発揮されている。
分厚い音ではなくどちらかというと室内楽的。
それがラヴェルには向いてる。パンチもある。
55:55
演奏 A+ 録音 94点