2023.10.01 (Sun)

ハイドシェック(p)/ヴァンデルノート/パリ管弦楽団(57、EMI)は大味ロマン。
ハイドシェック(Éric Heidsieck, 1936年~)は

60年前後にモーツァルトの協奏曲(20、21,23,24、25、27番)を録音し
日本では一部の評論家が激賞したこともあり
「モーツァルト弾き」として脚光を浴びた。
彼のピアノはコルトー直伝で自分の感じたままを率直に打ち出す傾向が強い。
本盤もそうした個性的な揺らぎが見て取れる。
ただし私としては残念ながらモノラルであること、
オケが雑な感じのすることからあまり好きになれなかった。
再録音盤が素晴らしいので彼の個性を聴くならそちらだ。
録音はザル・ワグラムでのセッション。
ピアノが強くオケが後ろに回る。この会場の残響の乾いた音と
繊細さを求めたくなるオケの音が気になる。
弦が美しくないのもリマスターが影響しているかも。
13:34 7:11 6:49 計 27:34
演奏 B+ 録音 75点
2023.09.30 (Sat)

ハイドシェック(p)/グラーフ/モーツァルテウム管弦楽団(93、Victor)は
気品と個性の融合。
ハイドシェック(Éric Heidsieck, 1936年~)は有名なシャンパン醸造元の御曹司。
「CHARLES HEIDSIECK」のラベルを見ると「ハイドシェック」と読んでしまうが、
シャンパンの世界では「エドシェック」と言うようだ。

彼は60年前後にモーツアルトのピアノ協奏曲を6曲録音しているが
根強い日本のファンのために(?)
90年代前半に9,12,18,19、20~25、27番を再録音した。
本盤はその一つだが録音もオケも上質でこのピアニストを堪能できる。
旧録音より一層陰影が濃くなり揺らぎも大きくなっているから
より個性的な演奏といえるかもしれない。最近ではなかなか聴けないロマンだ。
個人的にはあまりゴテゴテしたモーツァルトは好きではないが、
この演奏には惹きつけられた。
なぜだろう。
彼のタッチが上品で繊細だからだ。
第1楽章など寄せては返す波のような雰囲気がある。呼吸感がいい。
表情の変転がお茶目でもある。
第2楽章はゆったりした中にポツリポツリと語りかける。
ここではあまり作為的なことしていないのがいい。
終楽章はシャンパンの泡が弾けるように愉しい。

録音はザルツブルグ、モーツァルテウム音楽院ホールでのセッション。

適切な響きを持ち美しい響きを味わえる。ピアノやオケの距離感もいい。
14:11 7:47 6:57 計 28:55
演奏 S 録音 94点
2023.09.26 (Tue)

グルダ(p)/アバド/ウィーンフィル(74,DG)は凛としたピアノ。
グルダ(1930~2000)とアバド(1933~2014)のコンビでは
20、21,25、27番のピアノ協奏曲が録音され世評が高い。

安定のオケに対してかっちりしながらも自在なピアノが
とても愉しいからではないか。
グルダを語るときに常にジャズ・ピアニストという面が強調され、
それもどうかと思うが、やはり個性を感じさせる演奏だ。
第1楽章ではウィーンフィルの滑らかな音に対して
グルダの一音一音をかっちりした音出し。この対比が際立つ。
そしてグルダにによるカデンツァが聴きもの。ちょっとした奔放さ。
第2楽章はムードに流されずピアノの音がクールに立つ。
少しツンとしていて突き放したような表情の後に優しい表情を浮かべる。
第3楽章は溌剌。キラキラしたグルダのタッチが冴える。
快適快速に聴こえる。ここでもカデンツァにグルダの個性が光る。
それらが何とも愉しい。やっぱりこの演奏は好きかもしれない。
録音はムジークフェラインでのセッション。
DGらしい真面目な音作り。
フィリップスに比べると微妙な硬質感がある。
かっちりしたグルダのピアノを捉えている。空気感もウィーンのそれだ。
14:56 7:47 6:38 計 29:21
演奏 S 録音 89点
2023.09.25 (Mon)

内田光子(p)/テイト/イギリス室内管弦楽団(85、PHILIPS)は
品よく仄かな情感。
内田光子(1948~)は
1982年のロンドンでのモーツァルトのピアノソナタ演奏会で脚光を浴び、
1984年のピアノ協奏曲弾き振り全曲演奏会の成功で
フィリップスとのこの全集録音が始まった。
本盤ではテイト(Jeffrey Tate, 1943~2017)が指揮をしている。
全体のテンポは標準的。当時のフィリップス(エリック・スミス)のテイストで
柔らかな音が心地よい。ピアノの音は角が立たず転がる。
オケは品よく邪魔をしない。全体がセンスよくまとまる。
内田光子のピアノは時に感情移入が過ぎるように感じることもあるが
ここでは適切。
第1楽章はハイドンぽいリズムが目立つ。
第2楽章は前楽章と大きく対照し横の線が際立つ。
淀みがなく自然に流れる。
終楽章はまた快適。
内田は20年後にクリーヴランド管を弾き振りして全集を再録音している。
妙に濃くなっていないかの懸念もあって聴いていないがどうなのだろう。
録音はヘンリーウッドホールでのセッション。

往時の安定のフィリップス録音。
微妙にヴェールのかかった上品な音作り。空間も十分。
14:49 7:01 6:33 計 28:23
演奏 A+ 録音 94点
2023.09.24 (Sun)

バレンボイム(P&指揮)/イギリス室内管弦楽団(68、EMI)は
第2楽章が保有盤最長。そのことが示すようにとても濃厚。
このロマンティックは映画「みじかくも美しく燃え」に触発されたのかと思った。
映画の制作は1967年、本盤の録音は1968年だから。
映画は『19世紀のスウェーデンで実際に起った事件が題材。
既婚者の伯爵と美しい綱渡り芸人エルビラ。
恋に落ちた2人は、周囲の抑制を振り切って駆け落ちする。
逃亡生活の末、運も金も尽きてしまった彼らは、ある決断をする……。
衝撃のラストシーンと、全編に流れるモーツァルトのピアノ協奏曲第21番が
話題を呼び、当時日本でもヒットを飛ばした悲恋物語。』というもの。

映画はとても耽美的。そこに静かに寄り添うモーツァルトは
そよ風のようであって欲しい。
そうした意味では映画で使用されたアンダの演奏はフィットしている。
それに対してこのバレンボイム(1942~)は少しぽっちゃり。
まあ、これは勝手に映画を軸にして言えばの話。
演奏自体は26歳にして弾き振りしている彼の意欲が良く表出されている。
オケはおっとり感があるが、彼のピアノは溶け込みながらも粒立ちが良い。
そして時に見せる繊細で思いの表情がいい。
第2楽章の遅さはやや息も絶え絶えという気もしないではないが・・・。
全般に大家になって自信満々というのとは違う。
カデンツァはバレンボイム自身のもの。
録音はアビーロードスタジオ1でのセッション。
こじんまり感のある音場だが不足はない。
録音は古く鮮度はやや落ちたが鑑賞に問題はない。
14:30 8:34 7:38 計 30:42
演奏 濃A 録音 87 点